『アンチヒーロー』日曜劇場常連の迫田孝也が登場! 野村萬斎が醸し出す“悪”のオーラ
ジャン・バルジャンとジャベールのような明墨(長谷川博己)と伊達原(野村萬斎)
12年前の全てを知る男で、裏から手を引く伊達原は、瀬古や倉田を都合よく切り捨てるなど、冷徹で狡知に長けたイメージがあった。伊達原が自ら乗り込んできたのは、あからさまな恫喝以外の何ものでもない。表向き紳士然とした伊達原は、獲物をにらむヘビのような吐き気をもよおす邪悪なオーラをまとっていた。 タイトルの「アンチ」は何に向けられたものなのだろうか? 一人のためにその他大勢を敵に回す明墨はヒールだが、腐敗した権力の不正を暴く姿はヒーローである。正しいとされる権威を疑い、目的達成のために手段を選ばない姿勢は、一面的ではないヒーロー像を体現している。検察の正義を盲信して冤罪を生んだ明墨の歩みは、一人の人間に善悪の両面が備わることを物語っていた。 伊達原は自分と明墨は似ていると話す。検事を退官しなければ、明墨も伊達原のようになっていたかもしれない。『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンとジャベールのように、明墨と伊達原が表裏一体の人物造形であることはドラマの帰結に影響しそうだ。 日曜劇場の常連である迫田孝也の登場で、公式サイトに掲載されたキャストは勢ぞろいした。だが、どこか腑に落ちない。バックグラウンドがはっきりしないキャラクターがいるからだ。検事の緑川やパラリーガルの白木(大島優子)がそうだ。頻繁に目にするものの本筋に絡んでこない彼女たちの表情に、言外の意味を感じるのは筆者の思い過ごしだろうか。菊池(山下幸輝)に江越の存在を知らせたのは誰かという疑問もある。嵐の予感がする。
石河コウヘイ