80歳以上の女性が参加の「ミスコン」も…日本一の長寿村「海外旅行やギター演奏」高齢者の驚きの趣味
世界でもっとも平均寿命が長い国・日本。その中でも「長寿の村」として知られているのが、沖縄県の北中城村だ。 【閲覧注意!】大量の糞の入った袋に尿の入りペットボトル…高齢者の孤独死「生々しい現場」写真 【前編:日本一長寿の村「長生きの秘訣は〝ゆいまーる〟精神」】につづいて、高齢者の孤独を描いたルポ『無縁老人』を引用する形で、長寿の秘訣に迫っていきたい。 北中城村では、毎年「美寿(ミス)きたなかぐすく」というイベントが開かれる。いうなれば、高齢者版「ミスコン」だ。 このイベントでは、毎年80歳以上の女性を3名選出し、村のPR大使になってもらう。選ばれた女性は、その年の村の催事や公式行事に参加し、長寿の村のアピール活動を行うのだ。 このような行事が多数開催されることもあって、村の高齢者たちのそれらへの参加率は高い。それを引っ張るのが、北中城村老人クラブ連合会だ。各地区にある老人会の中央組織である。 連合会の会員はすべて合わせて1000人強。会は、ゲートボール、グランドゴルフといった運動大会、工芸や絵画といった作品展、歌や踊りを披露する芸能大会、さらには村の清掃活動をはじめとしたボランティア活動などを多岐にわたって開催している。 ◆老人会と子供会が一緒に 会長の安里幸男氏(81)は話す。 「老人会は世代間交流に力を入れていて、高齢者にとって良い刺激になっているように思います。村では餅つき、クリスマス会、民謡コンサート、料理教室など多様なイベントが開かれています。老人会だけでそれらをやるのではなく、子供会、青年会、婦人会などと一緒になってやる。これによってお互いにいろんな刺激を受けたり、プライベートでも仲良くなったりするようになるのです」 実際、高齢者だけでやるより、いろんな世代がまざるほうが活性化するだろう。高齢者の知識が思わぬところで役に立って自己肯定感が高まることもあれば、若い人の持っている新しい価値観に刺激を受けて何かを一からはじめることもある。それらがすべて老化防止に役立つのだ。 安里氏はつづける。 「老人会の活動とは別に、私が思う長寿の秘訣は、あくせく働かずにのんびりとしている村の文化にあるように思います。仕事をしてお金を稼ぐことに必死になるより、自分の趣味を楽しんだり、家族との関係を大切にできたりすることを重視する空気があるのです。こうしたことがストレスを減らすとか、家族が支え合うといったことにつながっているのではないでしょうか」 村の高齢者は、子供や孫ともよく一緒に過ごす。村は那覇市や沖縄市から車で1時間弱という距離で、ベッドタウンになっている。そのため、子供たちの多くが成人しても村に残っているか、すぐにやってこられる距離に住んでいるのだ。 かくいう安里氏も趣味や家族の時間を大切にしている1人だ。定年で会社を退いた後は、沖縄伝統楽器「三線」を習いだしたのを皮切りに、詩吟、陶芸、海外、オカリナ制作といった趣味に没頭してきた。新しいことを何か1つはじめるごとに、人間関係が広がっていくのが楽しかったという。 また、独立した子供たちは車で来られる距離に暮らしており、毎月のようにみんなで実家に集まっては誰かしらの誕生日会をしたり、お盆や正月の年中行事をしたりしているらしい。 安里氏は言う。 「この村では家族の仲がいいのは普通なんですよ。うちの子供たちは、実家での集まりとは別に、きょうだい家族同士でしょっちゅうバーベキューをしていますし、僕が孫たちを老人会のイベントに連れて行って遊ばせることもあります。 私の知る限り、他のお年寄から、子供と疎遠だとか、孫とのかかわり方がわからないといった話を聞くことはありません。村のお年寄は、何十年も米軍基地で働いていた人が多いから、英語が堪能で海外旅行が趣味だとか、バーベキューやギター演奏が好きだという人がいる。そういうところでも若さを保てているのかもしれません」 祖父母と孫の間に共通するものがあることは大きいだろう。祖父母が漬物しか食べなければ、孫は実家での食事に興味を示さないこともあるだろうが、バーベキューやギター演奏が趣味ならば、喜んで参加するかもしれない。そういう関係性が村の文化の中で自然と育まれているのだ。 高齢者が長寿を実現するためには、健康の維持が欠かせない。老人会の活動にせよ、【前編】で見たサロンにせよ、高齢者が自ら健康を維持していこうという意識がない限り、なかなかそこに参加しようとは思わないだろう。 私が訪れたのは、社協が運営を手掛けている老人デイサービスセンター「しおさい」だ。福祉の現場に集まる高齢者を通して、健康への意識をどのように保っているのかを教えてもらおうと思ったのだ。 海に面した建物の二階にしおさいはある。1日の利用者の定員は20名。午前9時に送迎が行われ、午前中にマッサージやリハビリを行い、昼食と昼寝を挟んで、午後2時~4時まで体操やゲームをする。利用料金は、食事代込みで1日700円だ。 ◆「遊びに来るような感覚です」 しおさいの職員の棚原亮太氏は話す。 「うちの施設の特徴は介護認定を受けていないお年寄りが利用なさっているという点です。健康を損なってから嫌々ここに来るのではなく、そうなる前に健康を維持するのを目的として通っている。だから、みなさん前向きですし、遊びに来るような感覚なのです」 利用者の身なりがそれを物語っていた。女性はみなきれいに服を着こなし、お化粧をしている。男性も整髪料で髪をセットし、アイロンをかけたばかりの服を着ている。デイサービスに行くというより、ショッピングセンターに友だちと遊びに行くような感覚で通っているのだ。そうしたこともあって、高齢者たちは終始楽しそうだ。 棚原氏はつづける。 「利用者さんにとって、ここは仲間が集まるコミュニティーなのです。だから、体が弱くなって介護認定されてうちを利用できなくなると、自分だけが脱落したような気持ちになる。それゆえ、毎週ここに来ようと、自然と健康に気を付けるようになるし、仮に転倒して骨折しても、懸命にリハビリをしてもどってこようとします。しおさいの仲間と楽しく過ごすことが、彼らにとって生きることの目標や励みになっているのです」 週の利用者は100名になるが、ほとんどが家族からの勧めではなく、自分の意思でやってきているのだという。 棚原氏も長寿の秘訣が気になって、なぜそんなに前向きに生きていけるのかと高齢者たちに尋ねたことがあるらしい。彼は話す。 「利用者さんが言うのは『おいしい物を食べているからだよ』ってことです。みなさんグルメで、80歳を超えていても、お腹いっぱい好物を食べています。また、『笑って楽しむしかないさ』とも言います。嫌なことをいつまでも引きずるのではなく、何をするにも笑って楽しむ態度が大切なのだ、と。実際にみなさん、そうやって生きているように思います」 これを聞いて思うのは、おいしいものを食べるのも、笑って楽しむのも、傍に誰かがいるからこそできることだということだ。 長寿の秘訣の詳細については『無縁老人』を読んでいただきたいが、〈前編〉で述べたようなことも含めて、村には誰かと仲良くつながることのできる文化や仕組みがたくさんある。彼らはそれを上手に利用することで、生きることに前向きになっているのだろう。そのことが「長寿の村」を成り立たせているのかもしれない。 取材・文・PHOTO:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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