SNSでバズった「Wpc.」のシャイニーアンブレラ。気候変動の時代に再認識されるファッションアイテムとしての傘の可能性
傘を日用品からファッションアイテムへ――。2024年に創立20周年を迎えた傘ブランド「Wpc.(ダブリュピーシー)」の新しいブランドメッセージ「傘はファッションだ。」。傘の国内売上トップシェアの同ブランドは、以前からデザインにこだわった傘を展開していたが、2020年に発売した「シャイニーアンブレラ」がSNSでバズったことがきっかけで、「ファッションアイテムとしての傘が求められている」と強く感じたという。同ブランドの広報を担当する株式会社ワールドパーティーの中村友香さんに、商品開発のこだわりや今後の展望、累計販売数100万本を突破した男性向けの晴雨兼用傘について話を聞いた。 猫写真家・沖昌之さんとコラボした「晴雨兼用遮光軽量アンブレにゃん」(写真左)と「プラスティックアンブレにゃん」(同右) ■時代の流れをくんだ商品開発 ――まずは株式会社ワールドパーティーの事業内容について教えてください。 【中村友香】傘ブランドの「Wpc.」と、ポンチョやバッグ、アウトドアグッズなど幅広く展開するブランド「KiU(キウ)」、大きくはこの2ブランドを展開しており、すべての商品の企画、生産、販売までを一貫して行っています。 ――ラインナップが豊富です。展開している商品数は? 【中村友香】傘だと約1000種類。年間300~400種類の新商品を発売し、常に入れ替えながら展開しています。 ――傘メーカーとしてスタートし、現在はレイングッズを幅広く扱っていらっしゃいます。どのような背景から事業を広げてきたのでしょうか。 【中村友香】もともと代表の中村(俊也)の両親が、自宅の一階で傘の加工業を営んでいたのが始まりです。中村は服飾系の専門学校を卒業していて、家業を手伝うような形で、傘のデザインをしていました。1990年に梅田ロフト(大阪市北区)が開業して、商品を持ち込んでみると扱ってもらえることになり、そのころから本格的にデザインや商品カタログの作成に力を入れるようになりました。1994年に株式会社ワールドパーティーに名義変更を行い、2004年に誕生した「Wpc.」は今年でちょうど創立20周年です。 ――「Wpc.」を立ち上げた背景を教えてください。 【中村友香】最初から売り上げを伸ばすのではなく、自社ブランドを展開して成長させたいという思いが中村にはありました。ワールドパーティー・ポシビリティー・クリエーションの略で、「新しい可能性を創造する」という意味。時代、時代の風に合わせてコンセプトを作り出すというのが、ブランドの軸になっています。 【中村友香】今まで傘はただの雨よけ、日傘はただの日よけ。道具にしか過ぎなかったと思うんです。コンビニのビニール傘を買っては捨て、買っては捨て…と繰り返す人も多い。でも最近はファッションの一部としておしゃれな傘を持ちたい、傘で個性を出したいという方も多くいらっしゃいます。そういう時代の流れとともに商品作りをしており、今年20周年を迎えたのを機に「傘はファッションだ。」という新しいブランドメッセージを作りました。靴やバッグのように「傘もファッションのアイテムの一部」ということを発信していくために考えたメッセージです。 ――「傘はファッション」を意識したのはいつからですか。 【中村友香】「ファッションとしての傘」という思いは以前からありましたが、それが求められていると気づいたのは2020年ごろでした。コロナ禍はリアル店舗での売り上げが見込めなくなり、ECに注力していた時期でした。そんななか、いかに新しい商品を生み出すかと考えて誕生したのが、オーロラ生地を使用した「シャイニーアンブレラ」です。SNSでトータル10万いいねを超える大バズり。晴れた日に傘を差して撮った写真をアップする人もいて、「ファッションとしての傘」をそれまで以上に意識するようになりましたね。 【中村友香】また、シャイニーアンブレラがきっかけで、傘はSNSで映える商品ではないかと気づき始めました。そこから商品自体のビジュアルや見せ方も非常にこだわるようになり、現在はSNS専属の広報担当者もつけています。 ――傘以外のグッズが増えてきたのはいつ頃ですか。 【中村友香】ここ3、4年です。「Wpc.」はデザイナーが描き上げたテキスタイルデザインが象徴的なブランドです。それを雑貨にも落とし込んでみようというところでハンカチを発売してみました。すると、生活雑貨専門店を中心に販売数を伸ばし、デザイン性という強みを実感することができました。 ――2024年6月1日には東京に「Wpc. Echika fit 銀座店」がオープンしました。 【中村友香】銀座店は他の店舗と比べるとコンパクトですが、デザインやディスプレイに非常にこだわっています。外観には傘を作る道具やパーツを組み合わせて装飾をしたり、商品は引き出しに陳列したり。いい意味で傘屋さんっぽくなくて、楽しんでいただけると思います。 ――東京に出店した経緯や銀座に決めた理由は? 【中村友香】もともと東京に出店したいと思っていたのですが、コロナ禍はなかなか先が見えず、今回ようやく出店できました。大阪の心斎橋パルコ店は、土地柄もあり8割ほどがインバウンドのお客様です。銀座店は銀座駅構内にあって人通りも多いので、国内とインバウンドのお客様の両方が期待できます。日本と海外のお客様では購入される商品は違いますが、これまでのデータの蓄積もあるので、銀座にオープンするのがベストではないかと考えました。 ――海外でも事業を展開しているのでしょうか? 【中村友香】中国を拠点に、中国、韓国、香港、台湾に向けて事業を行っています。中国限定商品もありますが、基本的には日本と同じデザイン、ビジュアルを使って、同じブランディングをしています。 ――商品の売れ方に違いは? 【中村友香】海外では雨傘よりも日傘の方が断然売れています。特に雨の日でも使用可能な晴雨兼用の日傘を探す方が多いです。 ――日本はビニール傘の消費量が世界で一番多いといわれています。やはり日本のビニール傘の需要は根強いのでしょうか? 【中村友香】日本の人口とほぼ同じ1億2000万本ぐらいの傘が1年間で消費され、そのうち8000万本ぐらいがコンビニなどで売られている安価なビニールだといわれています。電車に置き忘れるなどして、その場しのぎで買う方は多いと思います。ただ弊社では布傘のほかに、おしゃれなビニール傘も販売しています。骨の一部に軽くて折れにくく、強度の高いグラスファイバーを使っていて価格は2000~3000円台。デザイン性も耐久性もあると、みなさんビニール傘でも大切に使っていただいているという印象です。 ■ユーザーの声を反映、機能性に特化した商品も ――「Wpc.」の商品の特徴や、こだわっているポイントは? 【中村友香】天気やシチュエーションに応じて快適に過ごせる機能性とファッション性の2点を重視して開発しています。近年はゲリラ豪雨が多発し、猛暑日が長期化しています。そのため撥水性の高い生地を使った水切れのいい傘や、UVカット率・遮光率100%生地を使用した日傘を販売しています。また、弊社の傘はアパレル店でも取り扱っていただいていて、傘がファッションアイテムとして認識され始めていると思います。 ――機能性を重視した商品開発は、傘の加工業時代から培ってきた技術が活かされているのでしょうか? 【中村友香】そうですね、それに加えて、社員やお客様の声を反映した商品作りを行っています。例えば、水切れのいい「アンヌレラ」は、雨の日に傘を持って電車に乗ると、地面が水浸しになってしまうといった雨の日のストレスをなくしたいという声から作った傘です。また、雨の日の通勤や通学でバックパックが濡れてしまうストレスを解消するために、傘の一部が拡張する傘 「バックプロテクトアンブレラ」を作りました。 ――「Wpc.」が傘の国内売上トップになるまで、この20年で具体的にどのような取り組みをされてきたのでしょうか。 【中村友香】先ほどお伝えした機能性とファッション性に加えて、その時代の雰囲気を読み取る力はあるのではないかと思っています。最近では男性用の日傘です。今まで日傘は“女性ならでは”というイメージがありましたが、2021年に誕生した男性用日傘ブランド「Wpc. IZA(ダブリュピーシーイーザ)」の累計販売数は100万本を突破しました。 【中村友香】男性向けのコスメなどが出てきているなかで「男性も日傘を差してもいい」という考えは広まりつつあります。でも、どうしても心理的なハードルが高かったりします。そこで日傘としても雨傘としても使える機能性の高い晴雨兼用傘として打ち出すことにしました。普段は雨傘として使っていただいて、暑い日に、一回でもいいから日傘として使って、体感してみてください、と。2023年ごろから街中でも、日傘を差している男性を見かけることが増えたのではないでしょうか。2021年に誕生してその年は5万本、2022年は12万本、2023年は40万本売れました。晴雨兼用としてアプローチした結果が出ていると感じています。 ■傘をポジティブなものに ――ブランド誕生からの20年を振り返って、苦労したことや壁にぶつかったことはありましたか? 【中村友香】傘は天気が悪いときや、すごく暑いときなど「ネガティブなときに使うアイテム」です。それをどうポジティブに感じてもらえるか、というのが私たちのテーマでもあります。かわいい傘を持って写真を撮るとSNS映えする、水切れのいい傘を使うと快適に過ごせるなど、ポジティブに捉えるための戦略は常に考えてきたかなと思います。 ――手応えは? 【中村友香】今までは「傘メーカーを知っていますか」と聞いても、答えられない人がほとんどだったと思います。服や靴、バッグは好きなブランドがあっても、傘はブランド名も答えられない。でも最近では、Wpc.を指名買いしてくださる方も増え、SNSでもWpc.の名前を見かけることが増えてきました。今まで積み重ねてきたことの結果だと実感しています。 ――コロナ禍ではECに注力していたということでした。 【中村友香】コロナ禍は売り上げを見込めるのがECしかなかったので、定番商品も大事にしながら、EC限定商品を増やしていきました。弊社の特徴としておもしろいのが、デザイナーではなくても、自由に商品を作れることです。例えばすごく猫が好きな社員がいるのですが、毎年人気猫写真家とコラボした傘を企画しています。その傘は10万本以上売れたヒット商品になっています。自分が作った商品を一度EC限定で販売してみて、うまくいけば定番商品になって全国で販売する。雑談ベースで進めていたものがヒット商品になることもあるんですよ。 ――最近の消費者動向について教えてください。 【中村友香】弊社では日傘と雨傘の売り上げは7対3で、日傘の方が断然売れています。また2月から8月がよく売れる時期ですが、早くから日傘を準備される方が増えていたり、年々猛暑日が長期化してることから、その前後の1月、9月、10月に日傘を購入されるお客様も非常に多く、1年を通して日傘がトレンドだと感じています。弊社では生地の加工方法の違いなどにより、2000円台から6000円台までの日傘を展開しています。みなさんSNSなどでいいものを見極める目が養われているので、商品のよさをどう伝えるのかは常に考えていることです。 【中村友香】それに加えて、先ほどもお伝えした男性用の日傘も広がっています。「Wpc. IZA」を立ち上げるまでは見かけなかった男性用日傘の売り場も徐々に増え、弊社が作り出した市場だと思っています。男性用の日傘を作るメーカーも増えてきて、男性用日傘の市場は今後より活発化すると思います。 ――現在、力を入れていることは? 【中村友香】テキスタイルデザインは、生活を彩る、雨の日を楽しくするというところにつながっていると思うので、デザインをもっと多くの方に知ってもらいたいと思っています。その一環として雑貨ブランドを立ち上げました。キッチン・ランチグッズをはじめ、スカーフや扇子といった華やかなファッショングッズなど幅広く展開し、今後も増やしていく予定です。 【中村友香】また弊社はコラボレーションが多く、「ちいかわ」や「サンリオキャラクターズ」「I'm Doraemon」などとコラボをしてきました。そのほか新江ノ島水族館や、日本中を旅しながらクリームソーダを作る「旅する喫茶」とコラボした傘も販売して非常に好評でした。かわいさや美しさはもちろん、やはり傘なので水と親和性のあるところとコラボすると情緒感が生まれます。そういう付加価値をプラスできるコラボも大切にしています。 ――いろいろなデザインがあって、2本目、3本目がほしくなりました。 【中村友香】「新江ノ島水族館」とコラボした傘は、クラゲバージョンとイワシバージョンがあって、両方買っている方もいらっしゃいました。またクリームソーダの傘は5色展開で、自分の推しカラーで選んだり、推しが2人いたら2色買いしたりする方もいらっしゃいます。私も基本傘はひとり1本しか買わないと漠然と思ってしまっていたのですが、デザインを気に入ったら2、3本買ってくださる方がいるのだとそこで気づくことができました。 ――最後に今後の展望を教えてください。 【中村友香】Wpc.は今年20周年を迎えて「日用品としての傘」から「ファッションアイテムとしての傘」にステップアップできたのかなと実感しています。世の中ではまだまだ安価なビニール傘を使う人も多いですが、多様性が広がるなかで、自分を表現する手段のひとつとして傘を選んでもらいたいですし、気分が下がってしまうような雨の日も、傘を広げるだけで楽しい気分になっていただきたいと思っています。傘業界というニッチな業界ではありますが、需要がある限り、その人のために商品を作り続けていきたいと常に思っています。