邦画史上最恐のサイコパスは? 人の怖さを描く傑作日本映画(3)「恥を知れ」最悪の親…実在するおぞましい事件
連日報道される一線を超えてしまった人たちのニュース。金銭トラブルや殺人事件など、多くの人はそうした出来事とは無縁な生活を送っているのではないだろうか。しかし関わってはいけない人間は、確実に存在する。今回は身近な恐怖が味わえる、人間の怖さを描いた日本の“ヒトコワ映画”をセレクトして紹介する。今回は第3回。(文・市川ノン)
『先生を流産させる会』(2011)
監督:内藤瑛亮 脚本:内藤瑛亮 出演:宮田亜紀、小林香織、高良弥夢、竹森菜々瀬、相場涼乃、室賀砂和希、大沼百合子 【作品内容】 2009年に愛知県で実際に発生した事件をモチーフにした作品。 内藤瑛亮監督初の長編映画でもある。妊娠中の中学教師サワコ(宮田亜紀)に「あいつセックスしたんだよ」と嫌悪感を示す不良グループのリーダー、ミヅキ。ミヅキはグループの一員であるフミホらと「先生を流産させる会」を結成。 彼女たちはサワコを流産させる目的で給食に異物を混入させたり、椅子を細工したりする。その後も嫌がらせはエスカレートしていく…。 【注目ポイント】 なんといっても、まず心をざわつかせるのは「先生を流産させる会」というおぞましいネーミングだ。多感な思春期の中学生の思考に驚愕するばかりだが、もちろん自分も通ってきた道ゆえに一歩間違えば、誰もが「流産させる会」のメンバーになり得ていたかもしれない恐ろしさがある。 薬品を入れられた給食を吐き出した担任教師・サワコは、犯人のミヅキを厳しく叱責する。しかし、ミヅキは反省するどころか、さらに嫌がらせをエスカレートさせていくのだ。そんな女子生徒の行動に輪をかけてサワコを悩ませるのが、モンスターペアレント。 我が子を犯人扱いされた母親はサワコに「恥を知れ」と怒鳴る。ひと騒動あった後も、「まだ終わっていない」と話すミヅキの笑みにはゾッとしてしまう。思春期とはいえ、誰もが持つ人間の危うい心理状態を突きつける作品である。 また、初の映画出演となった少女たちの演技が、その無垢な悪意をさらに引き立てる。彼女たちの悪事をどこか淡々と描く演出も相まって、言い表せない不快感が終始続く作品だ。公開当初、賛否両論を巻き起こした本作。人間の命や微妙な心理などのメッセージが読み取れる映画である。
市川ノン