賃金上昇分の価格転嫁は個人消費回復の妨げに(2月毎月勤労統計)
実質賃金上昇率が安定的にプラス基調となるのは2024年10-12月期
厚生労働省は8日に2月分毎月勤労統計を公表した。2月の現金給与総額は前年同月比+1.8%増加し、実質賃金は同-1.3%と23か月連続での低下となった。 春闘での賃上げ率は事前予想を大幅に上回ったが、その影響が毎月勤労統計の賃金に表れてくるのは、年央頃になるだろう。さらに、それが物価に与える影響が確認できるのは、夏以降となるだろう。
春闘の結果を受けて、ボーナスや残業代などを含まない、基調的な賃金部分である所定内賃金の前年比上昇率のトレンドは、現在の+1%台半ば程度から、今年後半には+3%程度にまで高まることが予想される。毎月勤労統計で実質賃金の計算に使われる消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)は、前年同月比でコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)よりも0.5%ポイント程度高い。 これらの点から、コアCPIの前年比上昇率が2%台半ばの水準を下回ってくると、実質賃金上昇率は安定的にプラスに転じる計算となる。その時期は、2024年10-12月期と見たい。
個人消費への逆風は続く
春闘で賃金上昇率が予想以上に上振れ、また2024年10-12月期に実質賃金上昇率がプラス基調に転じても、それで個人消費が力強さを増す訳ではないだろう。さらに、個人消費の弱さが続くなかでは、積極的な値上げも続かない。 2022年以降、日本は「輸入インフレ・ショック」に見舞われた。物価上昇に賃金上昇が追い付かない時期が続く中、2021年平均と2023年平均との比較で実質賃金は4.2%も低下してしまった(図表2)。この先、実質賃金が前年同月比で上昇に転じるとしても、「輸入インフレ・ショック」前の水準まで戻るには、まだ何年も要するだろう。 また、実質賃金が大きく下振れる中、労働分配率も大きく下振れてしまった。企業に偏った分配が「輸入インフレ・ショック」前の水準まで戻るには、やはり何年も要するだろう。賃金上昇率の上振れは、「輸入インフレ・ショック」による物価高騰を後追いする、いわば正常化の過程と考えられる。しかし、その正常化はまだ始まったばかりであり、「輸入インフレ・ショック」の後遺症はまだ長く残る。