「予想された範囲内」の日露首脳会談 北方領土問題の進展には何が必要か?
領土問題に積極的ではない?プーチン氏
領土問題はなぜこのようなことになったのか、また今後どうすべきでしょうか。 ロシア側はこの秋以降、厳しい姿勢を見せるようになった印象があります。しかし、実はプーチン大統領は2000年に初めて大統領に就任した当初、日本側には前任者のエリツィン大統領時代に達成した「東京宣言(※1)」などの成果を認めていましたが、ロシア国内では解決すべき帰属問題としては歯舞、色丹の2島のことしか考えていないという趣旨の発言をしていました。 さらに、いったん首相に退いたのち大統領に復帰した2012年頃からは、一方で、双方が妥協する「引き分け方式」が望ましいとしつつ、1956年の「日ソ共同宣言(※2)」以外何も合意されていないと言わんばかりの発言をするようになりました。 それは明らかに事実と異なります。エリツィン大統領はもっと積極的、意欲的であり、1993年の東京宣言や98年の川奈会談において、北方四島の帰属が解決すべき問題であることが双方で確認されました。プーチン氏が言っていることは、それと比べるとかなり後退しており、ソ連時代の指導者であったゴルバチョフ大統領でさえもっと意欲的でした。 (※1)東京宣言…北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する (※2)日ソ共同宣言…平和条約の締結後にソ連(当時)が歯舞と色丹を日本に引き渡す
「トランプ政権」の対露政策で仕切り直し
プーチン大統領は、両国間の関係が経済面での協力によって進展し、信頼関係が築き上げられてはじめて領土問題が前進することが可能になるという趣旨の発言を繰り返しています。それはそれで分からないではありませんが、日露関係はさまざまな問題の影響を受けます。その中には、ウクライナ問題のように日本は直接関わっていなくてもロシアによって引き起こされ、欧米がロシアに制裁を科したような問題もあります。したがって、経済協力だけでなく政治問題も含め総合的に見ていく必要があるのです。 今後、日本としてはどのように北方領土問題を進展させていくべきでしょうか。カギとなるのはやはり米国です。日米と日露の関係は1950年代に日ソ交渉を始めた時から密接に関連しあっており、例えば日本は交渉の節目ごとに米国に説明し、米国の考えと齟齬(そご)がないことを確かめていました。プーチン大統領が安倍首相との会談後の記者会見で指摘した「ロシアと米国との間の安全保障問題が北方領土に関係している」こともその一例です。要するに、米国の対露政策によって日露関係は影響を受けるのです。 トランプ次期大統領は対露政策を改善する可能性がありますが、両国間にはロシアによるサイバー攻撃など敵対的な問題も残っており、全体として米露関係の去就は不透明です。日本としては米露関係の輪郭がはっきりするのを待って、あらためて対露制裁問題を含めロシアとの交渉戦略を立てるべきでしょう。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹