山田裕貴、“二刀流のヒーロー像”を成立させた強み 『Ultraman: Rising』声優の必然性
現在Netflixで配信中の『Ultraman: Rising』で、ウルトラマンに変身する主人公サトウ・ケンの日本語吹き替え声優を務めている俳優の山田裕貴。特撮テレビドラマ『海賊戦隊ゴーカイジャー』のジョー・ギブケン/ゴーカイブルー役で俳優デビューし、その後仮面ライダーに変身、さらには『ゴジラ-1.0』では、ゴジラと対峙する水島四郎を演じるなど、非常にゆかりの深い“特撮もの”への出演となったが、そんな彼だからこそ……と思わせるようなヒーロー像を演じている。 【写真】『Ultraman: Rising』場面写真(複数あり) 『Ultraman: Rising』で山田が演じているサトウ・ケンは、父からウルトラマンを受け継いで変身するだけではなく、プロ野球の超一流選手としてメジャーリーグでも活躍するという二刀流だ。 アニメーションの声を担当することにおいて、プロとして活躍する声優が務める場合と、俳優が声の芝居をする場合の2つのパターンがある。その都度、キャスティングについては、ファンの間で賛否が巻き起こるが、本作のサトウ・ケンは、これまでの山田の俳優としてのキャリア、そして自身のパーソナルな部分で共通点が多い。 山田自身も「自分の父親がプロ野球選手だったのもあって、野球選手がどのような生活をしているのかを自宅で見ていて、当時の父の姿とリンクする部分も感じながら演じました」「すごく、自分の心とリンクしながら演じることができたと思います」と触れているが(※)、山田の父である山田和利氏は、中日ドラゴンズや広島東洋カープで、一軍選手として試合に出場し、その後コーチとして在籍するなどプロ野球界で結果を残した選手だった。その父を見て育ってきた山田にとって、サトウ・ケンは感情移入しやすかったという。
『ゴーカイジャー』『仮面ライダー×スーパー戦隊』『ゴジラ-1.0』を経てのウルトラマン役
さらに、山田の経歴を振り返ると“ヒーロー”という共通点も浮かび上がってくる。山田の俳優デビュー作は、特撮テレビドラマ『海賊戦隊ゴーカイジャー』。本作で山田はジョー・ギブケン/ゴーカイブルー役として、メンバー随一の剣の実力を持つ存在として活躍した。 2012年に公開された『仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦』では、仮面ライダーへの変身も経験している。その後、第96回アカデミー賞でアジア映画史上初となる視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』では、戦後の荒廃した日本に現れたゴジラに立ち向かう新生丸の船上員・水島四郎役で出演。こちらは変身することはなかったが、熱い思いでゴジラに対峙する若者を好演した。 超一流プロ野球選手にして、地球を守るヒーローであるウルトラマンという役は、山田のこれまでのキャリアと符合する部分が多いことは、キャラクターを表現する上ではアドバンテージになる。 しかも、サトウ・ケンは、大スターである立場から、虚勢を張り周囲を顧みないような行動をとってしまいつつも、心の芯に持つ思いは金や名声よりも、“父親に関心を持ってほしい”という小さな思いを持つ人物。その辺りも主演として作品を引っ張りながらも、常に謙虚で周囲への感謝を忘れず、性格俳優としても高い評価を受けている山田には適役とも言える。 劇中、サトウ・ケンは、常に葛藤との戦いだ。スーパースターとして求められること、父に認めてもらいたいという欲求、ひょんなことから“敵”であるはずの赤ちゃん怪獣の養育を任されるという予想さえしない事態への対応……。 その都度、自身の置かれた立場を客観的に考える思考と、感情的になってしまう人間臭さとのせめぎあいを見せるサトウ・ケン。物語の大きなテーマである「調和を見つけること」への理解も、キャラクターを演じる上で大きなカギとなるが、山田は見事に役を理解し、演じ切っている。 日本を舞台にした物語を構築したシャノン・ティンドル監督、ジョン・アオシマ共同監督は、特別上映会イベントで山田を含む日本語吹替え版声優を務めた面々に「作品を一つ上のレベルに引き上げてくれた」と話していた(※)。 プロの声優の匠の技術と演技力が、多くのアニメーション作品のクオリティを上げていることは間違いのない事実だが、本作のサトウ・ケンと山田とのリンクが、キャラクターに説得力を持たせているという意味で、シャノン監督の言葉通り、山田の起用はまさに“適任”だったと言えるだろう。 参照 ※ https://m-78.jp/news/post-7112
磯部正和