「ライバルを超えたい」156キロ右腕・岩井俊介(ソフトバンク2位) 成長の原動力は負けん気の強さと探究心の強さ<年末特別企画・ドラフト指名5投手の成長物語④>
最終学年の飛躍につなげた投球間のスローボール調整とスラーブ習得につながった東芝戦
最終学年、さらに安定した数字を残すために、トレーニングを継続しつつ、投球練習の中身を変えた。キャッチボール、投球練習でも、たまにスローボールを投げる。それを何球も続けることがある。この調整をする投手は岩井しか見たことがない。その理由をぶつけてみた。 「シンプルにコースを狙う感覚を指先に感じるためですね。ラストイヤーを迎える冬の練習で入れてみようと思いました。指先の感覚が良くなったことで、狙った通りに投げられるようになりました」 結果として4年春は8試合で4勝1敗、防御率1.57の好成績を残した。そして大学日本代表の候補合宿でアピールし、見事に代表に選ばれた。同じ代表候補だった松本が漏れ、結果として、岩井が松本を追い抜く形で注目されるようになったのだ。 代表合宿は岩井の能力の高さを大きく証明する期間になった。岩井が投げ込んだストレートの数値が他の投手と比べても突出していた。なんと2700回転以上を計測していたのだ。 「ストレートの回転数は初めて測ったので、記録の紙をみたあと、自分の回転数をみたほかの投手から『回転数エグいな!』といわれて自分のストレートは回転数が高いんだなと実感しました」 そのストレートを投げるポイントについても語ってもらった。 「リリースまで力を入れず、リリースの瞬間に100%の力をぶつける感じです」 それはキャッチボールから現れている。とにかくゆったりと投げているように見えるのだが、その球筋は素晴らしいスピンがかかっているのだ。 キャッチボールについては「リリース直前まで力を抜いています」と並外れた回転数の高いストレートは高い意識のもとで行われるキャッチボールから実現しているのだ。 また秋からスラーブを投げ始めた。取材の際の投球練習でも披露してくれたが、打者の肩口から大きく曲がるエグい軌道だった。 「高校の時からずっと投げていたんですけど、大学に入って感覚を覚えて、春のリーグが終わってから投げまくってだんだん感覚が戻ってきています」 スラーブを投げるポイントについては、インタビューでも指の動きを交えながら解説してくれた。 「最初から手を巻いた状態で握ります。感覚的なことなので難しいのですが、少しひねるような動きで、回転をかけます。ストレートはそのまま指を本塁方向に向けて離すんですけど、スラーブは回転をかけるイメージで投げます」 スラーブを投げるきっかけは、大学日本代表として臨む日米大学野球の前に行われた直前合宿の東芝戦。岩井は延長10回のタイブレークから登板した。全力投球で常時150キロ台(最速155キロ)の速球を投げ込むが、東芝の各打者が粘られ、犠牲フライを許してしまう。東芝打線のレベルの高さを痛感し、新たな武器の必要性を感じた。 「本当にレベルが高かったです。とにかく空振りが取れない。スライダーを思い切り決めにいってもファウルで打たれますし、フォークでなんとか空振りを奪えたんです。苦しかったと思っています。 日米野球で対戦したアメリカの打者は大雑把なので、それほど苦労しなかったのですが、東芝さんは本当に凄いなと思いましたし、あのレベルを圧倒できるほどじゃないとプロで勝負できないなとめちゃくちゃ思いました。スラーブがあれば三振取れると思ったので、絶対的な変化球の習得を行いました。やはりスライダーとフォークだけではきつかったですね」 スラーブを習得し、秋のリーグ戦では6試合を投げ、3勝2敗、防御率1.77の好成績を残し、優勝に貢献。春秋と1年間通して高いパフォーマンスを発揮し、2位指名という結果を勝ち取った。岩井は「先発でも抑えでも任され、三振がたくさん取れる投手になりたいです」と抱負を語った。 ソフトバンクに入れば、さらに投手陣のレベルも高まりライバルも多くなる。一軍登板の道は険しいかもしれないが、そこでも負けん気の強さと探究心の高さを武器に成り上がり、目標とする奪三振が多い投手となって勝利に貢献してもらいたい。