隅ノ観音堂奉納「千匹絵馬」ぴったり千頭 輪郭は名久井岳/青森・南部町
青森県南部町の教育委員会は14日、江戸時代中期に同町小向の隅ノ観音堂に奉納された「千匹絵馬」について、描かれた馬の数が正確に千頭いることを確認したほか、これらの集合体が古くから信仰対象だった名久井岳の輪郭を表現していることが分かった-と発表した。絵馬に記された奉納者27人全員が女性であることも判明し、判読した東北史学会員で中世文献史学専門の若松啓文さん(弘前市)は「女性だけによる奉納は全国的にも極めて珍しい」と語った。 千匹絵馬の調査は、町教委の依頼を受けた若松さんが今年2月に始めた。高さ89センチ、幅1メートル42センチの絵馬は薄板2枚を上下に重ね、その上に屋根が追加されている。馬1頭当たり3センチ程度の精緻な筆致で描かれ、その集合体の形状が隅ノ観音堂から眺望可能な名久井岳を描いたものと推定されるという。 江戸時代、名久井岳の山麓には南部藩営牧場である「南部九牧」の一つに数えられた「住谷野牧(すみやのまき)」が存在していた。この牧場では40頭程度の馬が飼育されていたとされるが、この絵馬は山肌全面を埋め尽くすように馬が描かれており、多産や子孫繁栄を願う信仰の表れと考えられるという。 また、絵馬奉納の女性27人について若松さんは「隅ノ観音堂に集う女性だけの観音講の構成員で、絵馬は出資を募り奉納されたものと推測される」と説明した。 観音堂を管理・所有する同町の堀内重男さんは「馬の数がちょうど千頭描かれているのが分かって驚いている。多くの人に見てもらいたいのとともに、後世に大事に残したい」と話した。 町教委史跡対策室の布施和洋総括主査は「馬と密接な関係があった南部地方の独特な信仰形態を示す貴重な資料」とし、町が2026~27年度のオープンを目指し整備計画を進めている「(仮称)展示収蔵施設」での展示・公開を検討しているとした。