「勝つ組織」への改革で再成長、一休の「個の力をレバレッジする」仕掛けとは
■ AI時代だからこそ企業に求められる姿勢 ――今、生成系AIをビジネスに活用する動きが広まっています。データドリブン経営を目指す上で、企業変革に挑むリーダーは今後、AI技術の進化とどのように向き合うべきでしょうか。 榊 最近の生成系AIの進化には、目を見張るものがあります。特に「言葉の理解力」に関しては、人間のコミュニケーションや検索サービスの在り方に大きな変化を起こす可能性を秘めていると思います。 例えば、一般的なキーワード検索というと、「どこに行きたいですか?」「箱根」というやり取りから始まり、「いつ行きますか?」「今年の春休み」と続きます。そして、最後に「予算はいくらいですか?」「2人で5万円くらい」と入力すると、ウェブサイトが条件に合う結果を表示します。これでは本当はどこか不自然なんですよね。なぜかと言うと、人間ではなく、ウェブサイト側に質問のイニシアチブがあるからです。 AIが言葉の意図を理解できるようになると、「旅行に行きたい」と考える人間側がイニシアチブを持てるようになります。例えば、人間がAIに対して「東京から2時間くらいで行けて、夕方にはソファに寝転びながら、きれいなビーチの夕陽を眺めることのできる宿はありますか?」と聞けば、まさにこれだ、という完璧な答えをいくつも出してくれるようになるでしょう。こうしたやり取りで宿を探したい人も大勢いるはずですよね。 このように、AIは人間よりもはるかに精度の高い答えを、数多く出してくれます。しかし、人間とAIはお互いに競い合うのではなく、共存すべきだと思います。車と走るスピードを張り合おうとする人間なんていませんよね。車もAIも、人間の味方につけてうまく活用することが重要です。 ――AIを味方に付ける上で、注意すべき点はありますか。 榊 「AIに入力するデータ」の質が低いと、突拍子もない結果を出してくる点です。例えば、一休ではAIを活用したプライシング(値付け)を行っていますが、時にAIは驚くべき価格を提示することがあります。「人間であれば絶対にこんな値付けはしない」というような金額を提示するわけです。その原因の多くは、AIに入力するデータの質が低いことにあります。だからこそ、AIの活用を進めるほど、人間がAIに入力するデータの質を高める必要があります。 顧客データに関して言えば、今まで以上に「顧客の姿にじかに触れること」が重要視されるでしょう。定量的なデータから得られる示唆に加えて、リアルな顧客接点から得られる「顧客の心の動き」という定性的なデータの両輪が必要になるのです。 AIの進化に伴い、入手できるデータの量が飛躍的に増え、データの処理能力が量的にも質的にも劇的に高まるでしょう。その時に、データドリブンによる経営の意思決定、つまり「データドリブン経営」は一層進展するはずです。その時に重要になることこそが「顧客に徹底的に寄り添う」という姿勢であり、「データ≒顧客」という認識なのだと思います。
三上 佳大