「高齢者ほど選挙に行く」はホント? 実は“80歳の壁”がある(古市憲寿)
「高齢者ほど選挙に行く」。半ば常識として語られているが、事実はちょっと違う。年齢とともに投票率が上がるのは本当だが、そこには「壁」があるのだ。
東京都選挙管理委員会の公表しているデータを見ると、2021年の衆議院選挙で最も投票率が低かった年齢区分は21歳から24歳で約37%。「若者は選挙に行かない」というイメージを裏付けているともいえる。 だが18歳は約54%、19歳は約46%と意外に高い。「初めて」の人はきちんと選挙に行くらしい。特に18歳は高校生も含まれるから、時間的に余裕もあるのだろう。 そして投票率が最も高いのは70歳から74歳で約73%。この世代もまた時間がありそう。しかし75歳以上になると、投票率が下がり始めるのだ。特に80歳以上となると、約52%まで下がる。20代前半よりは選挙に行くが、18歳よりも投票率が低いのである。同じ傾向は他の選挙でも確認できる。 どうやら選挙にも「80歳の壁」があるようだ。80歳ごろを境に体調を崩し、投票所へ足を運べない人が増える。さらに地方では投票所の統廃合により、より選挙に行きにくくなるという事情もあるようだ。つまりシルバーデモクラシーといっても、それは75歳未満の高齢者に限っての問題ということになる。 さらにいえば、高齢者だからといって、必ずしも高齢者優遇の政策を歓迎するとは限らない。多くの高齢者には子どもや孫、またその世代の知り合いがいる。せめて自分の孫世代くらいまで、この国が幸せであってほしいと願うのは、決して不自然な感情ではない。
2100年の日本の人口は、楽観的な予測で約8000万人、シビアな予測では5000万人を切るとみられている。現在のインフラを人口5000万人の国で維持するのは不可能だ。しかもただの人口減少ではなく、高齢化率が高止まりした超高齢社会が続く。少しでもマシな2100年を迎えるためには、今から社会の仕組みを変えていかないと間に合わない。 2100年というのは途方もない未来ではない。今年生まれた子どもは、まだ75歳前後である。平均寿命を考えれば、彼らのほとんどが2100年まで生きる。その時の日本が8000万の人口を維持する平和な国なのか、それとも殺伐とした修羅の国になっているのか。それはこれからの75年にかかっている。 果たして「自分のことばかり考えて、少しの社会保障や医療制度の改革も許さない高齢者」はどれくらいいるのだろう。政治家や官僚が頭の中で作り出した高齢者に、勝手に忖度(そんたく)しているということはないだろうか。 世代ごとの利害で考えてしまうと対立に見えることも、家族や友人単位で見れば変わってくる。その意味でも日常的な世代を超えた交流というのは大事だ。「世代」は「階級」よりもずっと超えやすいと思う。 ちなみに僕自身は2100年までは生きないだろうし、子どももいないので、どういうスタンスで未来を考えればいいか悩み中です。 古市憲寿(ふるいち・のりとし) 1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。 「週刊新潮」2024年10月31日号 掲載
新潮社