村上春樹原作アニメ映画「めくらやなぎと眠る女」深田晃司&古舘寛治が“かえるくん”をめぐるトーク
村上春樹原作初の長編アニメ映画「めくらやなぎと眠る女」が公開され、7月27日に東京・ユーロスペースでは日本語版の演出を担当した映画監督の深田晃司、作中のキャラクター、かえるくんの声を担当した俳優の古舘寛治がトークを行った。 日本公開にあたっての日本語版制作は、ピエール・フォルデス監督たっての願いで実現。日本語版では原作の世界観にふさわしいリアルな演技を重視し、古館のほか、磯村勇斗、玄理、平田満、柄本明ら実力派俳優陣が結集した。 日本語版を鑑賞した感想を「普段、海外の映画を見るときは原語で見る方が面白いと思っているが、この作品に限っては日本を舞台にした日本の話ですし、口の動きは英語なのにセリフはリアル。その歪みが作品にぴったり合っていてより面白い」と古館。俳優を用いた実写撮影をベースにした本作の特徴を挙げる。 アテレコ作業について、「ピエール(・フォルデス監督)は自分の描きたい世界観があるし、マルチな才能をお持ちの方。この映画はまずは俳優の芝居を起こしてアニメにしており、俳優としても面白いと感じた。日本語版では僕らはアテレコをしたので、絵に言葉を合わせなければならず、それがとても難しかった。普段の演技では、相手のリアクションを受けて、自分のセリフが出てくるが、アニメだとそれができない。俳優として行うリアクションの作業ができないのが難しかった」と振り返った。 深田は「ピエール(・フォルデス監督)は日本語がわからないのにすべての収録に立ち会うという狂気があり、ディスカッションしながら進めていった。同じ監督として、ピエールは英語、フランス語版でやりきれなかったことを実現したかったのだと思った。そういう情熱で作られたので、『めくらやなぎと眠る女』最新版だと思う」と述べ、演出については「いつも通りでやろうと思ったが、ピエールもいつも現場にいたし、既に英語版もフランス語版があるので、芝居が大きくなりそうなところを日本語らしくする翻訳のような作業だった」と語る。 そして、「古舘さんはカエルくんがひとことぼそっと言う言葉をうまく日本語で再現されていて、俳優の力はすごいと思った。かえるくんはセリフ量も多かったので、古館さんとのディスカッションはとてもありがたかった」と古館の仕事を称えた。 好きなシーンを問われると、古舘、深田ともに塚本晋也が声を担当したカタギリという中年サラリーマンの場面を挙げる。 「かえるくんに『一緒に戦ってくれ』と言われるけれど『地震を止めることなんてできないよ…』と返すのが、情けない悲しいシーンだけど面白い。自分の気持ちも見ないようにしているのが、かえるくんに出会うことによって、心をはきだして情けなさを告白する。ああいうものを表現できるのがフィクションの良さ」と古舘。 「見るたびに沁みるのが、カタギリが倒れた後の病院のシーン。自分と年齢も同じで自虐的に卑下するシーンは共感してしまう。かえるくんとのやり取りや看護士さんとカタギリの芝居が悲しくて、またカタギリとかえるくんの友情が感じられてすごく好き」と深田。 「どうしたら人と人がそういう存在になれるのかな、と教えてくれる」とかえるくんとカタギリの関係について古館が述べると、深田は「カタギリとかえるくんの解釈として、ピエールはふたりは同一人物というようなことも言っていた。映画をご覧になった方は、心にかえるくんを持ち帰ってほしい」と呼びかけた。