<解説>「チ。 -地球の運動について-」が描く3つの“美” つながる「知」のバトン
◇言葉の“美”
「チ。」が多くの人の心を引きつけるのは、キャラクターたちの言葉の力も大きい。「でも、そんなのを、“愛”とも言えそうです」「世界を、動かせ」「この世は、最低と言うには魅力的すぎる」など地動説を追い求める人々の言葉は、シンプルだが、力強い。原作者の魚豊さんに以前インタビューした際、キャラクターたちのせりふについて「ほぼ逆張りなんです」と語っていた。
「一般的に言われているような価値観に対して逆張りをして、さらにもう一回逆張りする。そうすると、シンプルなところに戻ってこれるんです。シンプルなことを最初に言っただけだと、重みを感じられないし、説得力を感じられないわけですよね。例えば、『愛は大切だよ』と言われても、どうかな?と思う状況の中に、今僕たちはいて、そこに重みをつけるために、最初に『愛は大切じゃない』ということを誰かに言わせておいて、その後に『愛は大切だよ』に戻ると、『やっぱりそうじゃん』と思える」と説明。言葉を信じられなくなっている現代だからこそ「説得力をつけたい」という。
アニメを手掛けるマッドハウスの岡恒成プロデューサーも、原作の言葉の力を大切にし、「せりふに集中して見られるような演出」を工夫し、「重要なせりふのあるシーンでは、キャラをあまり動かさず、長めのカットにして、せりふを強調して見せるような形をとっています」と語っていた。
◇星空の“美”
SNSなどでは、アニメ「チ。」は「部屋を暗くして見るといい」とも言われている。夜のシーンが多く、全体的に画面が暗めということもあるが、何より美しく表現された星空がよく見えるからだろう。
岡プロデューサーは、星空は「主役の一つ」といい、原作もアニメも“実際の星空”を基に描かれているという。魚豊さんが日付まで決めて星空を描いたシーンは、アニメでもプラネタリウムソフトを用いて、原作と同じ日付の星空になるようにしている。「チ。」においては、天体を観測するシーンはもちろん、何気ない会話のシーンやキャラクターが死を迎えるシーンですら、星空が美しい。
さまざまな“美”を描き、「世界は美しい」と訴えかける「チ。」。ただ、「チ。」は残酷さもある。魚豊さんは、インタビューで、「大地の『チ』、血の『チ』、知性の『チ』。この三つが渾然一体となった作品にしたかった」と語っており、「地」動説という「知」を求める人々の「血」が流れる展開は、見ていていたたまれなくなる。それでも、ラファウからオクジーたち、オクジーたちからその次へ……と「知」のバトンが引き継がれているからこそ、魅了される人が多いのだろう。第2クールでは、どのような“美”が描かれるのか、注目したい。