特殊詐欺で暗躍の「元暴アウトロー」警察が“大成敗”に乗り出すも…「社会的排除」では解決できない本質的な問題
社会復帰できず犯罪に走る“元暴アウトロー”
暴力団離脱者は、一般社会の処罰感情に加えて、「元暴5年ルール」により、銀行口座が開設できない、賃貸契約ができない、携帯電話の契約ができない等、社会復帰における壁がある。 こうした壁に直面し、社会復帰を断念した元暴が、再び犯罪に走ることは想像に難くない。筆者は、20年間反社研究に従事して、そうしたケースを数多くみてきた。 トクリュウの中で、警戒を「大」にしないといけないのが、この種の元暴である。彼らは、暴力団在籍時とは異なり、守るべき看板やおきてがない“元暴アウトロー”なのだ。何より、もともと犯罪社会の住民だから、犯罪のスキルや経験に加えて、犯罪ネットワークを有しているゆえに危険である。 暴力団離脱者を社会的に排除することで、彼らの社会復帰は困難となり、生活も困窮する。そうすると、追い詰められた彼らは元暴アウトローとなり、再びトクリュウのような集団に合流して犯罪的生活に陥るから、新たな被害者を生み続ける可能性がある。暴力団離脱者の社会復帰支援は、新たな被害者を生まないためにも不可欠である。
「刑務所入れろ」は税金の無駄遣い
ちなみに、「罪を犯した者は刑務所に入れろ」という意見があることも承知している。しかし、彼らを刑務所に収容すると、被収容者1人当たりの総経費は年間で約450万円に上るという(ダイヤモンド・オンライン 2023年10月16日)。この経費は、われわれの血税から賄われる。まっとうに働いて年間400万円稼ぐことが大変な昨今、「刑務所に入れておけ」という解決策は、効率的とは言い難い。 元暴の社会復帰につき、筆者の経験に照らして私見を述べさせていただくと、「住、職、衣」の確保に加えて「居場所」が不可欠である。だから、筆者が就労支援に従事していた時には寮付の職場を紹介していた。とはいえ、公的支援ということもあり、「居場所」の確保までは手が回らなかった。
元暴による、元暴のための立ち直り支援
公的支援ではカバーしきれなかった支援活動が、元暴の人たちによって行われている。先月24日に発売された『女ヤクザとよばれて――ヤクザも恐れた「悪魔の子」の一代記』(清談社)の主人公である西村まこ氏や有志による住居確保、就労支援、そして居場所づくりだ。この活動主体は、西村氏が支局長を務める「非営利活動法人・五仁會(ごじんかい)岐阜支局」である。 西村氏によると、「ここの住民は、普通の人じゃなく、訳アリの人が多いのです。たとえば、前科のある人、刑務所出たものの帰る場所のない人……様々です。こういう人たち、つまり、自宅の確保が難しい人たちのために部屋を確保しようと、藤本さん(編注:岐阜市柳ヶ瀬の西に位置する、五仁會岐阜支局の拠点・ロアビルの管理人)が管理するビルで始めた活動が、実は、五仁會岐阜支局の起点となっています」という。 さらに、居場所としての機能について、次のように述べている。 「毎日、仕事を終えてロアビル(編注:五仁會岐阜支局の拠点。一階は事務所兼住民の交流の場で、上階はワンルームの住居)の一階に集まるのは、コミュニケーションの場を持つこと、安否確認ができることなどの利点があります。ここロアビルでは、社会で孤立させない、ひとりにしないをモットーに、悪い事をしているであろう人にも(経験から何となく分かります)、冗談交じりに注意しつつ更生を促しています。税金から役所の手続きまで、何でも皆で教え合い、解決策を考えます。正直なところ、この場所は、ロアビルの住民の人たち以上に、私や藤本さんにとっても居場所になっています」 公的な支援には限界がある。しかし、暴力団のサブカルチャー経験者による支援は、かゆいところに手が届くようだ。この五仁會岐阜支局が運営するロアビルの定着率は高い。行政とは異なる元暴の支援は、共通の文化的背景を有するために、支援対象者の個別ニーズを把握しやすいという利点がある。 元暴による、元暴のための立ち直り支援、就労支援、居場所づくりの試みが、暴力団離脱者の再犯を防止する妙薬となることを、願ってやまない。
廣末 登