【行員の処遇向上】県内企業のモデルに(9月16日)
東邦銀行は10月、55歳以上の給与・賞与水準を平均1割引き上げる。行員数の先細りが懸念される中、ベテラン層がやりがいを持って働ける職場環境を目指す。高齢者の労働参加は、人口減少社会での働き手の確保にとどまらず、社会保障や財政維持の鍵も握る。今回の対応を礎に、定年後も長期にわたり意欲的に働ける就労モデルを構築してほしい。 給与引き上げの対象は行員全体の18%に当たる約350人で、平均10・7%のアップを予定している。上昇幅は最大で21・5%に及ぶ大胆な処遇改善となる。60歳の定年退職者が年々増え、将来的に行員の減少が進む見込みとなっている。50代半ば以降も、蓄えた技能と経験を生かして仕事に向き合える態勢が整えば、中堅層の離職防止にもつながる。 政府が6月に決定した経済財政運営の指針「骨太方針」には、「高齢者の労働参加率の上昇を継続する取り組みが必要」との考え方が盛り込まれた。働く年齢層が広がれば、社会保障の持続性が高まり、税収が増えて財政の健全化に道が開ける。2021(令和3)年の高齢者雇用安定法の改正で、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされたことを背景に、70歳定年制度の導入を打ち出す大手企業も現れている。
誰もが長く働ける下地づくりは、時代の要請とも言える。東邦銀は、定年後に再雇用する行員がそれぞれの職能を存分に発揮できる雇用環境を実現し、県内企業に示してもらいたい。 高齢者の労働参加を促すには、賃金の原資の確保が必要になる。価格転嫁実現に向けた元請けとの交渉で、下請け側の中小企業を後押しする役割を担えれば、地域に貢献する金融機関としての信頼性は一層高まる。 産業界の人手不足が深刻化する中、来年4月入行の大卒者の初任給は、現在より4万円多い過去最高の26万円に引き上げる。都市銀行並みの水準が実現するという。若手向けの研修・留学制度を充実させ、総合金融業としてコンサルティング能力をさらに向上させるべきだ。こうした人材が取引先の伴走支援で力を発揮すれば業績拡大に寄与し、地域経済活性化の原動力となるだろう。(菅野龍太)