SUPで釣り中にピンチ、「インフレータブル」の盲点 もし携帯電話の充電が切れていたら…【敦賀海保日誌】
みなさんはSUPってご存じですか?SUPっていうのは「スタンドアップパドルボード」の略で、ハワイ発祥のウォーターアクティビティのことを言います。サーフボードより少し大きいボードの上に立ってパドルを漕いで水面を進んでいき、普段とは違う解放感を味わいながらボードの上でバランスを取ることで体幹も鍛えらえるというものです。例をあげるとプレジャーボートが入れないような水深が浅い場所をSUPで漕ぎ出す「SUPクルージング」やSUPの上でヨガなどのエクササイズをして陸でやる以上の効果を得るという「SUPヨガ」などが有名です。最近では手軽に漕ぎ出せる利便性からかSUPで魚釣りを楽しんでいる人もいます。 そんなうみまるもSUPに初めて乗ったときは脚が小鹿のように震え、漕ぎ出した瞬間にバランスを崩して海にダイブな感じでした。(その後はちゃんと乗れましたよ?) さて、そんなSUPですが、使用方法を誤ると大変なことになるってお話です。9月のある晴れた日。SUPで魚釣りを楽しむために若狭湾を訪れてた知り合い3人組。SUPでの釣りは何度もしていて、若狭湾での釣りも初めてではなかったようで、最初はお互いが離れない様にSUPをロープで繋いで魚釣りをしていたようですが、そのうちの1人がロープに釣り糸が絡まるからとロープを外して単独行動をとったそうです。 単独行動をしたあと、風も少しあったようで、釣り中も何度か沖に流され、元の場所に漕いで戻るを繰り返していたところ、風はどんどん強くなり…最後はパドルで漕いでも前に進まず、どんどんと陸から離されたそうです。そんな状況に危機感を覚え、仲間2人に持っていた携帯電話で救助を要請。2人は流された1人を探して沖に出たけれど、救助するどころか自分たちも流され、元の場所に帰れなくなるというある意味二重遭難な状態となってしまいました。 結果的には、最初に流された人から通報を受けた海上保安庁の巡視船が3人とも無事に救助出来ましたが、元々連絡手段がなかったり、携帯電話の充電が切れたりして居場所の特定が遅れれば、大惨事にもなりえる事故となりました。 実はこの3人が使っていたSUPですが、インフレータブルボードといわれている種類で、他の地域でも同じような事故が起こっているボードなのです。 SUPのボードには種類が2種類あって、インフレータブルボードといわれているゴム素材でできたものは、空気を入れてゴムボートのように膨らませるタイプとハードボードと言われる強化プラスチックや木材で作られているものがあります。 インフレータブルボートは空気を抜けば付属のバックに入れて持ち運べることや値段もお手頃といった点から人気を集めているのですが、デメリットとして、「厚さがあり、風を受ける面積が大きくなりがちで風に流されやすい」、「穴が開くと浮力が無くなる」の他にネット通販で購入するため「同封の取扱説明書に書いてあること以外の乗り方等を学びにくい」があったりします。 どういうことかと言いますと、説明書も千差万別、英語版で読めないものもあれば、簡単な乗り方が書いてあるもの、膨らませ方しか書いてないもの、詳しく漕ぎ方まで書いてあるものもあったりしますが、最悪、「読まない」人もいるかもしれません。世の中、ネット通販や宅配サービスが普及し、誰でも簡単にものが買えるため、「SUPが欲しいなぁ~、ポチッ」で、届いたらすぐに知識がないまま「SUPに乗って海の上」が出来てしまうのです。 一方、ハードボードであれば、値段が高いうえに持ち運びが不便などのデメリットがあるものの、大体は専門店じゃないと買えないことから、専門店側がユーザーの知識や技量を確認し、技量等がなければ講習を行って習得させてから売るというサービスがあったりします。 もちろんインターネットなどの動画で勉強される人もいるでしょうが、漕ぎ方の動画はあっても、安全対策を詳しく解説しているのは中々ないですし、あっても面白くないからと敬遠されがちになってしまうのではないでしょうか? 今回事故に合われた方も大手ネット通販サイトで購入され、漕ぎ方や安全対策などをネット動画で見たとのことで、その動画で説明していた安全対策の中でも基本中の基本でもある救命胴衣の着用、携帯電話などの連絡手段の確保、気象海象の確認(今回は風速の見立てが少々甘かったのかもしれませんが…)を行っていたため、大事にならず無事に救助されました。 この安全対策のところを飛ばしたり、流し見して漕ぎ方だけを見てたりする人もいるのか、その基本的な安全対策も出来ていない人がいるのも現状だったりします。 なお、安全対策については海上保安庁のHPにあるウォーターセーフティガイドの「SUP編」で詳しく解説しておりますので、ご確認いただければと思います。最近だと大手サイトでマリンレジャー関係の道具を買うと、後日、ウォーターセーフティガイドの紹介メールがくるそうなので、怪しいメールだと思わず、読んでもらえるとありがたいです。 勉強や説明を聞くのは面倒で面白くはないかもしれませんが、何事も準備が大事。何かに備えて、みなさまも準備をして安全に遊んでいただければと思います。SUPをネット通販で買って初めて漕ぎ出したけど…それが「最後の一漕ぎ」なんてことは考えたくもありませんからねぇ~。(敦賀海上保安部・うみまる)