リンゴの木から「けん玉」、世界大会出場の松本市の男性 台風19号被災木使い災害の記憶を技に込める
けん玉が趣味で世界大会への出場経験もある松本市の会社員牛山翔太さん(37)=茅野市出身=が、2019年の台風19号災害で被災したリンゴの木を材料にけん玉を作った。長野市豊野町のリンゴ農家と親交があり、譲り受けた被災木を使った。けん玉作りに関わってくれた仲間の思いや災害の記憶を技に込め、競技や普及活動に臨もうと気持ちを新たにしている。 被災した長野市豊野町のリンゴの木で作ったけん玉 牛山さんは23年7月、広島県廿日市市で開かれたワールドカップ(W杯)に4年ぶりに出場した。「(W杯では)人とのつながりを示し、記憶に残るようにしたかった」。大会を前に思い浮かんだのが「おそらく世界初」となるリンゴの木で作るけん玉で出場すること。台風19号災害の被災木が念頭にあった。
通常の素材はブナやサクラ…
けん玉には通常、ブナやサクラを使う。素材が違うこともあり、当初は製作を引き受けてくれる木工所が見つからなかったが、知人の紹介で下諏訪町の木工所「あんず木工房」の宮川杏澄(あずみ)さん(37)が協力してくれることになった。 宮川さんがけん玉を作るのは初めて。構造を調べながら慎重に木を削り、十字形の「けん」の部分を完成させた。実際にリンゴの木で作ってみると「硬すぎず軟らかすぎず、絶妙でやりやすかった」といい、7月のW杯に間に合わせることができた。 素材には長野市豊野町のリンゴ農家宮下直也さん(36)の曾祖父が植えた樹齢約50年の被災木を使用。完成品の表面には変化に富んだ木目が浮かんでおり、「『これがリンゴの木なの』という感じで、めちゃくちゃ格好いいと思った」と宮下さん。農園で伐採した木はストーブ用のまきにすることが多いが、数十年にわたって丹念に手入れをしてきた木とあって「けん玉として形に残り、遊ばれ続けていくのはうれしい」と話す。
目標はワールドカップ出場
牛山さんは塩尻市社会福祉協議会の依頼で、市内の公民館などでフレイル(虚弱)予防にけん玉講座を行っており、「お年寄りでもけん玉の経験がない人がいて盛り上がる。もっと伝えていきたい」と語る。被災木で作ったこともアピールしていくつもりで、「今回は玉の部分がリンゴの木でできなかった。全てをリンゴの木で作ったけん玉で次のワールドカップに出たい」と意気込んでいる。