ハラスメントや性加害が横行する「映画界」を変えるには?白石和彌監督が語る「現場の取り組み」と「表現の自由」
---------- アウトローの世界を描いた作品を得意とし、2013年には殺人事件を題材にした映画『凶悪』で数々の賞を受賞して以来、映画監督としての地位を確立していった白石和彌監督(49歳)。その後、『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』『凪待ち』『ひとよ』など話題作を次々と世に送り出してきた。最新作『碁盤斬り』は、ずっと時代劇を手がけたかったという白石の思いが叶った初時代劇作品だ。映画製作の裏側を聞いた(全4回の4回目)。 ---------- 【写真】主演・草彅剛が見せた「意外な姿」
泣き寝入りは減ったが…
白石監督は性加害やハラスメントが横行していた映画界の体質を変えようといち早く声を上げ、各メディアで問題提起をしてきた。2021年公開の映画『孤狼の血2』の撮影前に、全キャスト・スタッフが差別・セクハラ・パワハラの定義と対処法を学ぶ「リスペクト・トレーニング」を実施したことも話題となった。 昨今、世間をにぎわせているジャニーズの性被害やダウンタウン松本人志の性被害疑惑に関しては、どう思っているのだろう。 「被害に遭った人が勇気を出して声を上げやすくなったり、それによって世の中が変わっていくのはすごくいいことだと思います。これは別に映画界に限ったことではないけど、もう長い間、誰かが抑圧された中で、例えば諦めたり、傷ついたりして生きているわけです。 もちろん勇気のいることなので簡単ではないけれど、被害を言葉にした時に何かの力で消されることなくきちんと問題として取り上げられるようになった。ただ、泣き寝入りの人が減ったとはいえ、まだまだ不十分だと僕は思います」 白石が監督をする作品に関しては全キャスト・スタッフはリスペクト・トレーニングを受けてから撮影に入っている。もちろん『碁盤斬り』もしかり。
パワハラは日常茶飯事だった
「実施したからといって、すべてをチェックできるわけではない。ある作品の撮影終了後に『実はハラスメントされていました。みんなは気づいてなかったけど』とこっそり教えてくれたりしますからね。ハラスメントをする人は一定数いるのはもうしようがないと思うしかないんだけど、ただ、『そういうことはよくないよ』とみんなが声を出し合うのが重要で、それが抑止力になるんです」 白石個人でいえば、助監督時代はパワハラなど日常茶飯事であったという。 「普通に蹴られたし、殴られましたよ。あと『バカ野郎。何やってるんだ』みたいな言葉の暴力ね。それが当たり前の世界でした。それが、やっぱりおかしいことなんだと、今はみんなが認識し始めてきているんだと思います」 一方、コンプライアンスを重視しすぎるあまり、あれもダメ、これもダメとがんじがらめになりがちなのもまた問題だろう。前クールで話題をさらったドラマ『不適切にもほどがある! 』。主人公演じる阿部サダヲの言動は、令和の世界では「不適切」なものばかりだったが、逆にそれが「本当に大切なのは何なのか」を人々に問いかけてもいた。では、映画界は時代の変化とどう向き合っているのか。 「今はもうテレビではタバコを吸う場面もほとんどNGでしょうし、緊急時でもシートベルトは必須。でも、それはスポンサーで成り立っている作品だからで、その点、映画は本質的に大丈夫です。男女の絡みにしても昔から変わらないR18とかR15という境目はあるので、あとはやるかやらないかの話で、やっちゃダメということはない。 日本では、表現の自由というのは一応担保されていますから。ただ、大きな映画は後にテレビで放送することも視野に入れて作るので、ある程度テレビのルールの枠内で作らなきゃならないから、タバコは吸わないでくれだ何だと規制がかかるとは思います」