Mrs. GREEN APPLE 大森元貴、バラードで発揮する真骨頂 聴き手を幸福にする歌声の効能
2023年のレコード大賞受賞や『NHK紅白歌合戦』への出場、ストリーミングの累計再生回数3億回突破と、日本の音楽シーンを語る上で欠かせない存在となったMrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)。 【画像】ミセス 大森元貴、上目遣いの接近ショット 誰もが認める国民的アーティストとなったミセスに、あなたはどんな印象を抱いているだろうか。夏の定番曲となった「青と夏」や『紅白』で披露した「ダンスホール」、『第65回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)で大賞に輝いた「ケセラセラ」といったポップで明るい曲調もミセスの魅力のひとつだが、他の良さを知らないのはもったいない。今回は大森元貴(Vo/Gt)のバラードの歌唱力にフォーカスを当ててみたいと思う。 ミセスの最新曲「ナハトムジーク」は、まさに大森の歌唱力をダイレクトに感じられるナンバーだ。楽曲再生と同時に大森の透き通った歌声が耳に届く。「繊細」や「神秘的」といった表現が似合う歌声だ。しかし、サビになるとこの歌声は表情を変える。壮大なメロディに合わせ、歌声も芯のあるものにチェンジ。真っ直ぐに耳に届いてくるその歌声に、心を鷲掴みにされる。2サビになると歌声のパワーが増し、彼の持つ歌声のパワーにハッとさせられる。「力強い」「圧巻」「迫力」そんな言葉が思い浮かぶ。そして根底にある愛情がじんわりと伝わってくる。表題の「ナハトムジーク」とは「夜の音楽」を表す言葉だ。ぜひ、夜にじっくりと大森の歌声に聴き入ってみてほしい。 ミセスには他にもバラードの名曲がたくさんある。例えばバイラルヒットも記録した「僕のこと」。 TikTokの投稿でも多くのユーザーが楽曲を起用し、〈ああ なんて素敵な日だ〉というサビだけでも耳にしたことがある人は多いだろう。「ああ」のふた文字だけで、大森の歌唱力が並大抵ではないことがわかる。あの高音をサビ頭からきれいに伸ばせるだけでも脱帽だが、サビ中にはこの曲の最高音のhiGが登場する。人気曲であるが故にカバーに挑戦する人もよく見かけるが、やはりこの高音に苦戦する人が多いようだ。一見、大森はなんてことのないように歌っているように聞こえてしまうかもしれないが、実はハイレベルなことを成し遂げているのだ。 次に「Soranji」に注目してみる。本曲でも見事な高音や伸びのある歌声は堪能できるのだが、ここでは大森の表現力の高さに今一度注目してもらいたい。生きることの尊さや喜びを込めて歌われるAメロは、優しく語りかけるようにしてリスナーに歌声を届けていく。発せられる言葉ひとつひとつの減衰も美しく、大森が丁寧に言葉を紡いでいる姿勢が伝わってくる。バックで流れるストリングスも相まって、イノセントな雰囲気に仕上がっている。生きている人間を誰ひとり置いていかない温かな歌に、救われたリスナーも多いことだろう。 今回は3曲をピックして紹介したが、ミセスには他にも「They are」「光のうた」「鯨の唄」などバラード曲が数多くある。バラード曲はゆったりしたテンポだからこそ、ボーカルの表現力が際立つ。歌詞やメロディ、楽器のサウンドによって表情が変わる歌声は何度聴いても心に響くものがあるし、聴き手の気分によっても感じ方が変わってくるのも面白いところだ。時には聴き手を前向きにし、時にはそっと隣にいてくれる優しさがある。本稿を書きながら、改めて大森元貴というボーカルの偉大さを実感した。
伊藤美咲
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