米酪農場での鳥インフルのヒト感染、多数が未発見か 無症状感染まん延の懸念
米疾病対策センター(CDC)の新たな報告で、酪農従事者を対象に血液検査を行ったところ、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)の感染歴を示す抗体の保有者が7%に上ったことが明らかになった。 CDCは今年6~8月、コロラド州とミシガン州で鳥インフルエンザに感染した乳牛の世話をしていた酪農従事者115人から血液サンプルを採取し、聞き取り調査を行った。対象者は全員、搾乳、糞尿の清掃、牛の移動などの作業に従事していた。聞き取りに対し、安全ゴーグルなどで目を防護していたと答えた人は37%、高性能マスクを着用していたと報告した人は21%と、いずれも少数派だった。 血液中から過去3か月以内に感染したことを示す抗体が検出されたのは8人(7%)で、聞き取り調査では4人が、世話していた牛が鳥インフルエンザ陽性と診断された時期に体調を崩したことを打ち明けた。8人全員が搾乳室の清掃を行っており、うち7人は搾乳も行っていた。 抗体が検出されなかった(感染歴のない)人では、搾乳室の清掃を行ったと報告したのは約40%にとどまった。感染した牛の乳にはウイルスが大量に含まれていることから、搾乳室の清掃は感染リスクが特に高い作業の可能性があるとCDCは報告している。 感染歴が確認された8人のうち、CDCが推奨する高性能マスクを使用していた人はおらず、目の防護具を着用していたのは3人のみだった。また、4人は聞き取り調査に対し、感染症状や体調不良の自覚はなかったと答えた。 11月4日現在、CDCは米国内におけるH5N1型のヒト感染事例が44件確認されたと報告しているが、今回の調査結果は、実際の感染者数がはるかに多い可能性を示唆している。 これまでに乳牛への鳥インフルエンザ感染が確認された酪農場は全米で440カ所に上る。コロラド州とミシガン州の調査で判明したヒト感染率7%がすべての酪農場に当てはまるとすれば、感染歴のある酪農従事者は数百人、あるいは数千人に及ぶおそれがある。今月初めにはロサンゼルス郡の下水検査でもウイルスが検出されており、かなりの数の感染例が発見できていない可能性を示している。 世界保健機関(WHO)によると、鳥インフルエンザ(H5N1型)のヒト感染事例は、2003年以降5カ国で903件が確認されている。うち464人が死亡しており、致死率は51%と高い。ただし、重症患者が入院して検査でH5N1型陽性と診断されやすい一方、CDCの最新報告が示唆するように感染しても無症状の人がいるかもしれないことを考えると、致死率が過大評価されている可能性は否めない。 H5N1型の感染症状の多くは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や季節性インフルエンザなど他のウイルス感染症と重複しているため、鳥インフルエンザに感染したことに気づかなかったり、症状が軽ければ医療機関を受診しなかったりする場合もあるだろう。 現時点では、鳥インフルエンザがヒトからヒトへ感染していることを示す兆候は見られないが、感染した動物との接触歴が見つからない症例がいくつか確認されている。また、感染した人の数だけウイルスが変異して遺伝的適応が起こる機会が生じているため、今後ヒトヒト感染が発生する可能性は否定できない。 専門家はヒトヒト感染について、現実的な懸念であり、鳥インフルエンザの重症度が高まって重大かつ広範な公衆衛生上の脅威となりかねないと警鐘を鳴らしている。
Victoria Forster