路上生活を抜け出した少年、「この村は俺の家、村のために何か役立ちたい」
ネパールの首都カトマンズにあるダルバール広場。古いチベット仏教建造物の並ぶこの一角は、人気の観光名所でもある。2009年、僕が初めてストリート・チルドレンと遭遇したのがこの広場だった。 ◇ ◇ 午前中は学校に行き、午後は施設の世話をするのがチリングの日課だ。 「なんとか中学校は卒業したいな。あと1年なんだ。成績は良くも悪くもなし。卒業できたら、仕事に就きたい」 自分のことを話すことが照れ臭いのか、それともまだ自らに自信がないのか、チリングの声はか細い。外で吠える犬の声に遮られて、聞き取れなくなるほどだ。それでも彼は、学校は卒業したい、ときっぱり言った。 施設に入って1年目は、抜け出して路上の仲間のところに戻ったことも何度かあったが、その度に施設の長に説得されて戻ってきた。今では施設のある村での暮らしに居心地の良ささえ感じているようだった。 「何かこの村の役に立つようなことができたらと思う。父さんも母さんもどこにいるか分からないし、今はこの村が俺の家さ」
僕の追いかけてきたダルバール・ボーイズ数十人のなかで、グルーをやめ、路上生活からきっぱりと抜け出すことができたのはチリングだけだ。ここまでくれば、さすがに彼が元の生活に戻ることはないだろう、そう思いたい。子供たちがストリートから脱却することがいかに難しいかを目にしてきた僕にとっても、彼は唯一の希望なのだ。 (2016年3月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<ネパールのストリートチルドレン>- 高橋邦典 第50回」の一部を抜粋したものです。