公開された映画の一場面（（ｃ）「Ｔｈｅ　Ｂｒｅａｋ　世界一、負けず嫌いのテニスプレイヤー、上地結衣。」製作委員会）

　パリ・パラリンピックの車いすテニスで、明石市出身の上地結衣選手（３０）が、日本勢初の単複２冠という快挙を成し遂げた。自他共に「負けず嫌い」と認める上地選手の魅力を伝えようと、今回の金メダルをつかむまでの３年間に密着したドキュメンタリー映画をスポンサー企業が製作。地元では祝賀会が開かれ、競技を始めた頃から応援する市民らが上地選手をねぎらった。（領五菜月） 【写真】ドキュメンタリー映画を製作した新山監督 　上地選手は生まれつきの潜在性二分脊椎症で、足などにまひがある。テニスをしていた姉の影響もあって、１１歳の頃に車いすテニスを始めた。すぐに頭角を現し、１４歳で日本ランク１位に。四大大会も制すなど、華々しい成績を残してきた。 　ただ、２０１２年、高校３年生でロンドン・パラリンピックに初出場して以降、連続してパラリンピックに出場しても、なかなか金メダルには届かなかった。その要因は、６年連続で世界ランク１位に君臨するオランダのディーデ・デフロート選手の存在だ。 ◆日々の生活 　１８日に公開された映画「Ｔｈｅ　Ｂｒｅａｋ　世界一、負けず嫌いのテニスプレイヤー、上地結衣。」では、宿敵との対戦に備え、車いすの改良や調整を重ねつつ、練習に打ち込む姿が描かれている。 　「主演と書いてもらってるけど、全然演じているわけではない。日々の生活や会話など、ありのままの自分を追ってもらえた」と上地選手。映画の中で、パラ前の試合に負けて悔しがる様子や、車いすエンジニアと談笑する場面など、さまざまな表情を見せる。 　上地選手は「周りの支えなしに、こんなにすてきな映画は完成しなかった。人と人とのつながりが、今の上地結衣をつくっている。映画を通して、みんなの周りにも支えてくれる人がいることを再認識する時間を持ってもらえたら」と話している。 　映画を手がけた映像制作会社の新山正彰監督は「上地選手を支える人がいっぱい集まってくるのは、あたたかい太陽のような明るい性格だから」と分析する。 　２２日、ＴＯＨＯシネマズ梅田（大阪市北区）であった舞台あいさつでは、上地選手と新山監督が登壇。見どころや撮影の裏側トークを繰り広げ、会場を盛り上げた。タイトルにもなった「負けず嫌い」について問われた上地選手は、「家族でトランプをしても、自分が勝つまでやめない。試合に限らず、勝負事になると負けたくないという気持ちを常々持っている」と話した。 ◆大切な存在 　一方、映画の中でも、上地選手が度々口にし、大切にしているのが「応援してくれる人、支えてくれる人」だ。 　地元では、上地選手の母芳美さんの元職場で、ガス事業会社「シィメス」（神戸市西区）が「上地結衣選手を応援する会」を設立。今回のパラでも、市民からメッセージを募るなどして、応援を盛り上げた。 　２１日夜には神戸市垂水区のホテルで祝賀会が開かれ、会のメンバーや学生時代の恩師ら約１７０人が輝かしい活躍を祝った。 　冒頭、上地選手は「皆さんの顔を見ると、ここまで頑張ってきてよかったと思う」とあいさつ。参加者からの質問に答えるコーナーで「頑張ったご褒美は？」と聞かれ、「会いたい人や応援してくれている人に会いに行く時間が一番のご褒美」と答えていた。 　参加者に金メダルを見せたり、一緒に記念撮影したりした上地選手。「ここまでの道のりは長かった。でも、到達するまでに出会うべき人に会ったり、自分のやるべき事を乗り越えたりするための時間が自分にはこれだけ必要だったと感じる」と涙ぐんだ。 　　　　　□ 　映画は一部地域で上映中。関西では、ＴＯＨＯシネマズ梅田での上映が終了し、２６日時点で今後の上映予定は未定。上映予定は、映画の公式ホームページで確認できる。