<インド その6~本の壁>-高橋邦典
首都デリーの中心街を歩いていると、小さな店先にうず高く積まれた本の山が目に入ってきた。店員の姿が隠れてみえなくなってしまうほどのその高さは尋常ではない。面白いのでしばらく店の前で眺めていると、店内にいた男の一人が、体をよじりながら天井にしがみつき、本の谷間を乗り越えて外に出てきた。なんと外側には「着地用」の長椅子が備え付けてある。
どうやら他に扉などはないようで、中に入るのも外に出るにも、この谷間を越えていかなくてはならないらしい。ちょっと脇に出入り口になるようなスペースをつくればいいものを、と思うが、本が多すぎてそんな余裕がないのだろう。確かに無駄なく空間を利用してはいるが、出入りに相当な手間がかかるので、果たしてこれが合理的か否かは判断しかねる。 インドでは、日常の中で、まったく思いもかけなかった光景にでくわすことが少なくない。そんなこの国の人々に、また楽しませてもらったある朝の出来事だった。 (2014年11月撮影)