青春ドラマの新領域“生方調”「海のはじまり」で脚本家・生方美久が描く現代青年の孤独と愛への成就
「海のはじまり」(フジテレビ系・毎週月曜よる9時)は、中途難聴者役に目黒蓮を配した大ヒットドラマ「silent」と、都会の孤独な若者が偶然触れあうようになる傑作「いちばんすきな花」をてがけた脚本家の生方美久の3部作目ともいえる作品である。青春ドラマの新しい領域を切り開いた最高傑作である。 【写真】「海のはじまり」が見せる生方美久の世界観 大学生時代に恋人同士だった、月岡夏(目黒蓮)と南雲水季(古川琴音)。水季は夏の子どもを妊娠して、中絶することを決め夏に承諾書にサインを求める。手術の日、産婦人科の前の道に夏は心配げにたたずんでいる。産科を出てきた水季は「なにか食べに行こう。なにを食べてもいいっていわれたから」と。 水季は夏に知らせることもなく、大学を中途退学する。夏のスマホに水季から電話がかかってくる。 水季 「別れよ。別れてください。夏君よりすきになっちゃた、ずーっと一緒にいたい人ができたんだよね」 夏 「誰?」 水季 「内緒、秘密……」「その人になにか伝えたいことある?」 夏 「あるわけないだろう……お幸せに。(水季は)マイペース、わがまま、薄情、その人に捨てられる」「ごめん、体本当に大丈夫?」 水季 「うん、元気でね、バイバイ」 それから、7年。水季が亡くなったことを友人からの連絡で知る。夏は水季の葬儀に参列するために水季の地元に向かう。
「海のはじまり」という仕掛け
葬儀場で水季の棺にすがるようにして、死に顔を見る少女に夏は驚く。会場の待合場の椅子が並んだ部屋で、夏は絵を描いている少女に話しかける。「水季の娘さん?」と、夏が話しかけると「うみ、サンズイ」と答える。年齢は6歳だと。「海」である。 夏は海(泉谷星奈)にイヤホンを渡して、自分のスマホの映像を見せる。夏と水季が海に遊びに行ったときのものだった。これが伏線となって、最高傑作の忘れられないひとつのシーンにつながっていくのである。 海が絵を書いていたあと片付けをしていた、水季が図書館で働いていた時の同僚だった津野晴明(池松壮亮)は夏と挨拶をして、夏の名字が月岡であることを知る。そのことを水季の母親である朱音(大竹しのぶ)に告げる。夏は斎場からの帰りのバス停に立っていた。 朱音 「月岡さん?」 夏 「はい」 朱音 「あの、水季の母です」 夏 「はい、えーっと」 (朱音はスマホの番号を書いた紙を、夏に手渡しながら) 朱音 「気になったら、連絡をください。気にならなかったら捨てて。水季の人生は終わったけど、この子(海)の人生なんて始まったばかりなんです」 夏 「なんで、僕に?」 (朱音は、海の母子手帳に挟み込まれていた中絶の承諾書を夏に見せる) 朱音 「一度はこうしようとしたことを忘れないために、ずーっともっていたんです。親でもなにを考えている娘だったのかわからないところがあって。 海の父親やりたいとか思わないですよね。わかります。水季が勝手に生んだ。 ただ、想像してください。この7年の水季のこと。今日1日だけでも」 海は「夏くーん」と手を振って、朱音と津野に手を引かれてさりながらも夏を振り変える。