「入院費が戻る」特殊詐欺に狙われた女性を救ったなじみの郵便局員の声かけ
交流サイト(SNS)や電話を使ってお金をだまし取る詐欺被害が長崎県内で後を絶たない。犯人は巧妙。身に覚えがある話を持ち出されることもあり、警戒心が緩み信じやすい。被害に遭う一歩手前で踏みとどまった女性は「これまで詐欺は人ごとだった」と振り返り、当時の切迫した状況を話してくれた。(鈴鹿希英) 【写真】感謝状を手に記念撮影する森岡勇志局長(右)と一瀬永充・大浦署長 4月19日夕方、長崎市晴海台の女性(66)宅の固定電話が鳴った。「入院費の2万8千円が戻りますよ」と市職員を名乗る若い男が電話口で言った。昨年、実際に入院した女性。「いろいろな手続きもしたし、その一つかな」と疑いもしなかった。 夕食の準備中だったため、受け取りを後日にできないかと相談すると「今日で終わり」とせかされた。同時に、受け取りに必要なものなどを丁寧に説明してくれた。「これ以上迷惑をかけたくない」と思い、三和郵便局へ車を走らせた。男からは「郵便局に着くころに電話する」と言われ、携帯電話番号を伝えた。 到着すると、男からの着信が。「今から言うことをそのままATMに打ち込んでください」。言われるがままに電話片手に操作した。大阪の支店名や口座番号、48万円の払い込み金額を入力したとき、ふとわれに返る。 あれ、2万8千円を受け取りに来たはずなのに、「払い込み画面」に「48万円」とあるのか-。怪しく思い問い詰めると男は「表示されているのはお金ではない」「気にしないで大丈夫ですよ」となだめてきた。 納得できないと食い下がり、電話口で押し問答になった。その時。「何か手伝いましょうか」と顔なじみの森岡勇志局長(47)が声をかけてくれた。退院後に体調を気にかけて声をかけてくれた信頼できる人だ。事情を伝え、代わりに応対してもらううちに電話は切れた。 還付金詐欺だった。ATMの操作画面で、ボタンをあと一つ押せば送金が完了するところだった。「一人は不安だった。なじみの郵便局じゃなかったらどうなっていたか…」と声を落とした。 男に電話番号を伝えたことと関連があるのか、女性の携帯電話には今も海外から怪しい入電がある。「まさか自分が当事者になるとは思わなかった。簡単に電話には出ず、番号をまず確認するよう用心深く過ごしている」と話す。 ∞ 大浦署は5月14日、偽電話詐欺を未然に防止したとして、森岡局長に感謝状を贈呈した。森岡局長は「日頃の関係があったからすぐに手伝いを提案できた。これからも地域とのつながりを大切にし、詐欺も積極的に周知したい」と語った。