センバツ高校野球 常総学院 出場への軌跡/下 「つなぎ」浸透で成長 /茨城
◇「夏15残塁」消えた気負い 2023年秋の関東大会、常総学院の3番・片岡陸斗(2年)のバントがスタンドを沸かせた。「残塁15」の山を築いて敗れた夏の課題を踏まえて誕生した新チームは、「つなぎの野球」を追求。成長を体現した一打が、3年ぶりの甲子園をたぐり寄せた。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 夏の茨城大会は苦い経験だった。4回戦・茨城戦で10安打を放ちながら3―5で競り負けた。敗因は「残塁15」という数字が物語っていた。上級生に交ざって出場した片岡や若林佑真・現主将(同)、主砲の武田勇哉(同)は、「皆が『自分で決めないと』とプレッシャーを感じすぎ、硬くなった」と口をそろえる。 解決策は実戦で見つけるしかなかった。秋の県大会地区予選は苦戦が続いた。だが試合を重ねるうちに何とか打線に火が付き、本大会は5試合で55安打47得点。残塁も1試合10以下に抑えられ、チーム内に「自分が決めるのではなく、つなげば皆が決めてくれる」という意識が芽生えた。「勝つことで硬さが抜けてきた」と島田直也監督は評する。 上り調子で迎えた関東大会準々決勝・花咲徳栄(埼玉)戦二回、追いかける常総は若林の2点適時打で1点差に迫り、1死一、二塁の好機が続く。打席に向かう片岡は相手の内野守備位置が深くなっていることに気がついた。「足が速い方ではない自分に無警戒なのでは」。ベンチからサインは出ていなかったが、「今しかない」と不意を突くセーフティーバントを仕掛けた。 打球が捕手の前で高く跳ねる間に一塁ベースに頭から飛び込むと、塁審の手は横に広がり、「セーフ」のコール。1死満塁とし、続く武田の左前2点適時打で逆転。4強入りが3年ぶりのセンバツにつながった。 片岡は県大会で打率3割を超え関東でも好調を維持していたが、「あの打席は武田につないだ方が得点になると思った」と振り返る。冷静な判断で後続に勝負を託した3番に、島田監督は「指示を出す我々も予想していないプレーで、相手も意表を突かれたはず。自分を犠牲にして、理想の野球を体現してくれた。一番印象深いプレー」と目を細める。 島田監督は「本塁打を1本打たれるより、四球を選ばれたり、安打でつながれたりする方が投手はしんどい」と分析。「チームバッティングや嫌らしい攻撃とか、選手自身で考えられるようになった」と成長を誇る。春に向けてチームは実戦を想定したシート打撃で一人一人が試合状況を考え、打線に磨きをかけている。【川島一輝】