アラン・デュカスの料理学校に潜入──世界的シェフの技と心を学んでみた
パリの中心部に位置するエコール・デュカス パリスタジオ。著名シェフ、アラン・デュカスの名を冠したこの料理学校は、500平米の広々とした空間で、ガストロノミーのトレンドを体験しながら、料理の腕を磨くことができる場所だ。実際にレクチャーを受けてきた。 【写真を見る】クラスの様子をチェック!
プロの技を間近で学ぶ
「エコール・デュカス パリスタジオ」は、パリの16区に1999年に誕生した料理学校だ。料理初心者から上級者まで、幅広い層に向けた多彩なクラスがあり、アラン・デュカスのレストランで提供しているレシピから製菓、ワインまで、いわゆるフランス料理全般を学ぶことができる。子供向けの「Kids & Teens in the kitchen」、健康志向の人のための「Healthy cooking」も用意されている。 また、プロのシェフを目指す人だけでなく、予約枠の空きがあれば、パリを訪れる旅行者でも気軽に参加が可能。価格は99ユーロからと、世界的シェフの技を学べる体験としては比較的手頃だ。 筆者が今回挑戦したのは、「For Beginners」クラス。アラン・デュカスのもとで経験を積んだシェフが講師を務め、本格的な菓子作りに挑戦した。この日のレシピは、フランス菓子の代表格であるマカロンとシュークリーム。むずかしいだろうと思っていたマカロンも、コツを教わることで意外にも上手に作ることができた。 シュークリームの製作過程では、菓子作り初心者の筆者にとって興味深い話があった。シュークリームといえばゴツゴツとした表面が当たり前だと思っていたのだが、シェフ講師は「表面がゴツゴツしているシュークリームは、必ずしも美しいとは言えない。メロンパンのようにクッキー生地を二層に重ねることで、よりなめらかに美しく洗練された形に仕上げていく」と語った。一緒に体験したクラスメートから、それが最近のシュークリームのスタンダードな形なのだと聞いて二度驚いた。 ■知識共有が育む料理界の未来 シェフ講師の丁寧な指導ぶりや、惜しみなく技術をわかりやすく教えてくれる姿勢に感銘を受けたが、同時にひとつの疑問が浮かび上がった。なぜ、これほどまでにオープンにレシピや技術を公開するのだろうか。 この疑問にデュカスシェフ本人が応えてくれた。 「伝えていくこと、伝達していくことに強い思いがあります。シェフを育てることも、学校で学生に伝えることも、本を出版することも、すべてがその一環です。さまざまな形で私たちが生み出した料理や技術、文化を伝えていかなければならないという強い使命感があるのです」 さらに、彼は続ける。 「卓越性=エクセレンスを探し求めることに終わりはありません。絶えずそれを追求しています。その対象は、フランス料理に限らず、食に関する全般に及びます。レストランだけでなく、ビスケットやコーヒーなども含めた食全般について、技術やノウハウ、テクニック、そして考え方、すべてを伝えていきたいのです」 デュカスシェフにとって、知識や技術の共有は、料理界全体の発展につながる重要な要素だ。ただ美味しいだけでなく、細部まで見た目の美しさにこだわり、つねに改良を重ねていく。そして、その最新の技法を惜しみなく共有する。先述のシュークリームは、まさにデュカスシェフが語る「卓越性=エクセレンスを探し求めること」の実践であり、「伝えていくこと」の重要性を体現しているのだと感じた。 ■アラン・デュカス流成功の鍵 若手のシェフやパティシエ、そして料理を学ぶ者へのアドバイスが欲しいと尋ねると、彼は次のように語った。 「厳密であること、規律を守っていくこと、自分に対して絶えず貪欲であること、早く正確によりよく、たくさん仕事をしていくこと。これらが基本のベースになります。必ずしも成功を保証するものではありませんが、これらの姿勢は料理の世界だけでなく、どんな分野でも活かせるものです」 エコール・デュカス パリスタジオは、この哲学を体現する場所だ。最新の設備と経験豊富なシェフ講師陣、そして温かい雰囲気の中で、料理の技術だけでなく、ガストロノミーの世界を深く味わい、食に対する真摯な姿勢を学ぶことができる。「オープンさ」が、じつは料理界全体の発展と個人の成長を促す鍵だったのだ。 アラン・デュカスは、9月末にパリ16区のメゾン・バカラにオープンしたレストラン「アラン・デュカス バカラ」に続き、10月24日に迎える「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」の日本上陸など、絶え間ない挑戦を続ける。次世代へのフランス料理の知識と技術の継承の拠点のひとつである、エコール・デュカス・パリスタジオも注目だ。 ■エコール・デュカス パリスタジオ(École Ducasse – Paris Studio) 住所:64, street of Ranelagh, 75016 Paris TEL:01 44 90 91 00 営業時間:9:00~18:00 休:日・月
文・松村亜希 編集・岩田桂視(GQ)