基地建設と人材競合 サトウキビ栽培苦境に 鹿児島県種子島
鹿児島県種子島の基幹作物、サトウキビの栽培が苦境に立たされている。今シーズンの収穫を迎えるも、すぐ近くの西方12キロに浮かぶ無人島、馬毛島で自衛隊基地の建設工事が始まった影響で、収穫機オペレーターなどの人材確保が難航。29日から製糖工場で受け入れが始まり、今後収穫作業が本格化するが、現場からは「人が足らず、とても収穫が終わらない」と悲痛な声が上がる。 「今、動かせる収穫機は4台。昨年から2台減らさざるを得なかった」。種子島で、サトウキビ約17ヘクタールなどを手がける農業生産法人たすくるの川南幸三代表は、声を落とす。予定していたアルバイト30人のうち、8人は基地関連の仕事に入ったという。 同法人は、種子島で200人以上からサトウキビの刈り取りを請け負い、昨年は収穫機6台で約150ヘクタール分を受託。今年は4台、約110ヘクタールに縮小した。 川南代表は「なかなか人が集まらない。こんな状況になるとは思わなかった」と戸惑いを隠せない。刈りきれない40ヘクタールは、農業公社を通じて調整し、他の組織が対応する。
賃金歯が立たず
馬毛島では1月、防衛省が航空自衛隊の基地建設の工事に着手。最も近い有人島の種子島の住民が工事に従事するケースは多い。 中でも建設重機を使える人材は、サトウキビ収穫機のオペレーターと競合する、その上、建設工事の賃金が「サトウキビ収穫の2倍以上」(地元関係者)のため、人材流出が止まらない。 建設業者など大勢の関係者が種子島内に訪れているため宿泊場所も足りず、島外から人を集めることも難しい状況だ。サトウキビを収穫後、処理施設から製糖工場まで運ぶ業者も不足している。
次期作にも影響
種子島のサトウキビは、約1200人が2000ヘクタール以上で栽培する地域の基幹作物だ。地元のJA種子屋久は「農家は収穫と並行して、施肥や培土など次期作の準備もする。収穫が遅れると、準備作業が滞り、来年産の糖度や収量にも影響が出かねない」(経済部)と懸念する。 島内からは行政に支援を求める声が上がる。県農政連熊毛地区連絡協議会と島内の西之表市と中種子町、南種子町の農政連支部は、1市2町に、労働力不足解消に向け、基地整備にかかる国の交付金を使って担い手育成や人材確保への予算確保を求めている。 「住宅の手配に加え、島外に魅力を発信し、定住してもらう仕組みが必要だ」。人材確保に向けて、川南代表はそう訴える。(小林千哲)
<メモ> 馬毛島での航空自衛隊基地建設
馬毛島は平坦な地形で、滑走路などが比較的建設しやすいことに加え、九州・沖縄に自衛隊拠点が少ないため、防衛省は活動・訓練拠点として有望視する。工期はおおむね4年程度と見込まれている。
日本農業新聞