単なる嫌がらせではない中国軍機の領空侵犯、日米レーダー施設破壊が目的
■ 1.情報収集機Y-9は、中国軍のスパイ機だ 中国軍情報収集機「Y-9」が、2024年8月26日、下図のように接近飛行を行い、午前11時29分頃から11時31分頃にかけて、長崎県男女群島沖の領海上空を侵犯した。 【図】侵入するY-9が電子情報を収集するイメージ(筆者作成) 情報収集機というのは、俗にいうスパイ機である。 このスパイ機が、監視・通告を受けても堂々と接近して領空侵犯を続け、実働行動による妨害も受けず帰投していったのである。 写真と図:領空侵犯した情報収集機Y-9と接近・侵犯の経路 今回の接近で、スパイ機Y-9は九州に配置されている航空自衛隊の監視レーダー、戦闘機基地、海上自衛隊の航空基地、港あるいは九州近海に所在していた艦艇とそのレーダー、米軍の艦艇とそのレーダー電子信号情報(以下レーダー信号)をキャッチ、録音して母機地に持ち帰った。 中国国防省呉謙報道官は8月29日の記者会見で、26日の中国軍機による初の日本領空侵犯について「深読みしないことを望む」と強調した。 スパイ機の役割を知っている軍の報道官は、それを公にされると中国が批判されることが分かっているので、批判をそらそうと、この表現にしたのだろう。 中国のスパイ機が、日本に領空侵犯してまで取った米軍および自衛隊の通信電子情報は、戦時に監視レーダーや艦艇を攻撃するために使われる。 戦時に使う貴重なデータとなることは、軍事専門家であれば「深読み」をしなくても分かっている。 スパイ機Y-9に関わって、 (1)電子情報を取る方法 (2)その情報の戦時での使用法 (3)ウクライナでの戦争でレーダーの破壊に使用 (4)中国軍の日米の電子情報を入手する狙い (5)中国はどの場面で電子情報を使用するのかについて、考察する。
■ 2.スパイ機Y-9による電子情報取得の方法 中国のスパイ機Y-9は日本の九州に向かってきた。 そこで、日本と米国の各種兵器はレーダーを作動させ、電子信号を放出してその機を監視し、追随したと考えられる。 なぜなら、その機が日本に侵入し攻撃行動を取った場合に、撃墜する必要があるからだ。 今回の場合、航空自衛隊の監視レーダー、防空ミサイルの捜索レーダー、戦闘機の捜索レーダー、日米軍艦の防空レーダーが、図1のように活動したものと考えられる。 監視レーダーは、300キロを超える探知能力、戦闘機は約150キロの探知能力がある。 Y-9に捜索レーダー波(射撃用レーダー波ではない)を照射するはずである。 つまり、中国のY-9は、各種レーダー波を照射された。 図1 侵入するY-9が電子情報を収集するイメージ Y-9は、エリント情報とシギント情報の両方を収集する能力を保有しているので、その情報を受信し録音する。 そして、そのデータを持ち帰り、解析専門の機関に提供する。 解析機関は信号を詳細に分析し、それぞれの信号はどの種類の戦闘機、軍艦、監視レーダーなのかを特定する。 例えば、電子信号であれば、戦闘機の「F-15」「F-16」「F-35」のどれなのか、イージス艦なのか空母なのかを特定できるようにする。 海上であれば、商船を含めた各種艦船が航海中に電波を放出しているので、その中から空母やその他軍艦の電子信号を分離しなければならない。 それができなければ、軍艦を対レーダーミサイルで攻撃することはできない。 空母は、レーダー信号を放出することが少ないため、エリント衛星で入手した信号とY-9から入手した信号と照合することになろう。 中国軍は今、最も知りたい米空母の位置を知るために、空母のレーダー信号を特定することに努力を集中している。 以前、中国が米本土にバルーンを飛行させたことがあったが、そのバルーンも、米艦艇のレーダー信号情報を取るために、軍艦の上空を飛行させたものだと思っていたが、その意図がバレてしまったため、今はできなくなったと推定している。 図2 米空母などのレーダー信号を取得する要領(イメージ)