高まる「賃上げムード」も恩恵を感じないのはなぜ?賃金が上がっている世代とは【専門家が解説】
この春、大手企業を中心とした賃上げの波が、中小企業にも広がっていると報じられた一方で、「実感がない」「自分には関係がない」といった働く人の声も多く聞かれます。賃上げムードが広がっているのに、恩恵を実感できない人が多いのは、なぜなのでしょうか。第一生命経済研究所の首席エコノミスト永濱利廣さんにうかがいました。
◆賃金が上がっているのは若年層とシニア層
――2024年の春闘は大手企業の賃上げに続き、中小企業も32年ぶりの高水準と報道され大きな話題となりました。多くの労働者の賃金が上がっているにもかかわらず、その恩恵を実感できないのはなぜなのでしょうか。 永濱さん:賃金は上がっているのですが、それ以上に物価が上がっていることが最大のポイントですね。そもそも働いている人のなかには、春闘の交渉に直接関係のない中小企業に勤めている人も多い。さらに、根本的に言うと、日本の世帯の3分の1が無職の世帯で、働いていないシニアが多く、年金生活を送っているんです。 マクロ経済スライド(※)により、物価と賃金が上がると、実質の年金受取額は目減りしてしまいます。そう考えると、賃上げの実感がないのも頷けるのではないでしょうか。 加えて、昨年は30年ぶりの賃上げで一般労働者の所定内給与は前年比+2.1%と増えているのですが、年齢階級・学歴別に見ると、おもに賃金が上がっているのは30代前半までの若年層と60代以降のシニア層です。30代後半から50代前半のいわゆるロストジェネレーション世代(以下、ロスジェネ世代)では、賃金が上がっていないんです。 (※)賃金や物価による年金額の改定率を調整して、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組み ――なぜロスジェネ世代の賃金は上がっていないのでしょうか。 永濱さん:これは逆に、若年層の賃金が上がっている理由を考えたら分かりやすいです。若年層の給与水準はもともと低いので上げやすい。なおかつ、若年層は少子化の影響もあり、人数が少ない。若いので転職もしやすく、労働市場における流動性も高い。企業が優秀な人材を囲い込むには待遇を良くしないといけないので、給与も上がるのです。 一方で、30代後半から50代前半の人たちは、その真逆です。年功序列的な報酬体系で働いている場合、賃金水準がすでに高いので上がりにくい。加えて、30代後半以降になると、(より良い待遇での)転職は相対的に難しくなってくるじゃないですか。なので、労働市場における流動性も低い。 さらには、60代以降の賃金が上がっていることも関係しています。一昔前までは60歳で定年退職して、非正規で再雇用されるケースが多かったんです。それが最近では継続雇用制度の義務化もあり、定年が延長され、賃金は下がっても正社員で働く人が増えています。 (定年前より)賃金が下がるとは言え、以前のように非正規で再雇用されて働くことに比べると賃金は高いじゃないですか。 では、その財源を企業はどのように捻出しているかと言うと、もともと中年世代の賃金を上げるはずだった分を60代以降の定年延長分に充てているのです。 こういった理由から、30代後半から50代前半の賃金は上がっていないというわけです。