【米大統領選2024】 トランプ政権の元首席補佐官、トランプ前大統領は「ファシスト」と米紙に
ドナルド・トランプ前米大統領の下で首席補佐官を最も長く務めたジョン・ケリー海兵隊大将は、22日付の米紙ニューヨーク・タイムズに対して、トランプ前大統領が「ファシスト」の定義に当てはまると思うと述べた。さらに、11月5日の大統領選で共和党の候補になっている前大統領が、ナチス・ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーをたびたび称賛していたことや、米誌アトランティックがかねて報道していたように、戦死した米兵を「負け犬」と嘲笑していたことも同紙に対して追認した。 ケリー元首席補佐官がトランプ候補の性格や大統領としての適性について、主要紙に実名で発言し、明確に批判したことを受けて、民主党の大統領候補カマラ・ハリス副大統領は23日、トランプ候補が再び大統領になれば「無制限の権力」を求めるだろうと批判した。 トランプ陣営はこれに反論し、ハリス副大統領が「うそを広めている」「まったくの負け犬」だと非難したほか、ケリー元首席補佐官については「とっくに否定されている話を蒸し返して、自分を笑い者にした」と批判した。 ニューヨーク・タイムズに対してケリー元補佐官は実名で、トランプ政権での自分の体験から、前大統領にはファシストの傾向があると述べた。 「ファシズムの定義を見ると、それは極右の権威主義的で、極端に国家主義的な政治イデオロギーと運動で、独裁的な指導者、中央集権化した独裁体制、軍国主義、反対派の強権的な抑圧、そして、社会とはそもそもヒエラルキーによって成り立っているのだという権力構造への確信などが、特徴としてあげられる」とケリー氏は前置きした上で、「自分の経験では(トランプ候補は)間違いなく、こうしたやり方でアメリカを運営した方がうまくいくはずだと考えている」と述べた。 記事でケリー氏は自分の意見だとしたうえで、トランプ候補がファシストの定義に合致するし、許されるならば独裁者のように統治するだろうと述べたほか、合衆国憲法や法の支配という概念への理解を欠いていると指摘した。 「政府による統治というものに、独裁者のように取り組む方を好んでいるのは間違いない」、「自分が世界の最高権力者じゃないことを決して受け入れていない。権力とはこの場合、自分がやりたいことをいつでも好きな時にやれる能力という意味だ」とも、ケリー元補佐官はニューヨーク・タイムズに述べた。 「アメリカがそもそもどういうところで、アメリカをアメリカにしているものが何なのか、この国の憲法上の意味や、この国の私たちの価値観、家族や政府に対する見方を含めた物の見方、そうしたものをほとんどすべて拒絶したに等しい。そんな大統領は私が知る限り、少なくとも私が生きている間は間違いなく、ほかに一人もいない」とも、ケリー氏は同紙に話した。 ケリー氏はまた、トランプ前大統領が戦場で死亡または負傷した米軍兵士を「だまされやすい負け犬」と呼び、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーをたびたび肯定的に評価していたという、かねての報道もその通りだと認めた。 ケリー氏によるとトランプ候補は折に触れて、「ヒトラーは良いこともしたんだよ」と繰り返していた。 ケリー元補佐官はニューヨーク・タイムズに対し、自分は特定の大統領候補について支持表明はしないものの、トランプ氏の再選は支持しないと述べた。 ケリー氏は同紙に、自分が2019年にホワイトハウスを離れた時、トランプ大統領(当時)がきわめて憂慮されること、あるいは自分が関与したものの甚だしく不正確なことを発言した場合に限って、実名で発言することにすると決めていたのだと説明。そのうえで、トランプ候補がこのほど、「国内の敵」と呼ぶ相手に対して米軍を使う可能性を発言でほのめかしたことが、あまりに危険なため、発言しなくてはと思ったのだという。 記事によるとケリー氏は、トランプ候補の「政策の一部には賛成することもあるだろうし」、元軍人として、特定の候補を支持することはしないとしたうえで、「地位の高い公選ポストに不適切な人間をつかせるのは、とても危険なことだ」と警告した。 ケリー氏の一連の発言についてトランプ陣営のスティーヴン・チャン広報担当はマスコミへの声明で、ケリー氏は「大統領にしっかり仕えなかった」、「とっくに否定されている話を蒸し返して、自分を笑い者にした」と批判した。 ■「無制限の権力」 ハリス副大統領は23日、ケリー氏発言の報道を受けてワシントンの副大統領公邸前で記者団を前にし、トランプ候補は「合衆国憲法に忠実な軍隊を望んでいない。彼は自分に忠実な軍隊を望んでいる」と述べた。 そして、トランプ候補が再び大統領になれば「無制限の権力」を望むはずだと警告した。 ハリス副大統領はまた、トランプ前大統領が「急進左派の狂人」を「国内の敵」なので対処すると発言したことについても触れた。副大統領は、トランプ候補が自分の政敵や記者、自分と意見の異なる相手を「国内の敵」と呼んでいると非難した。 ハリス氏はさらに、トランプ候補が「アドルフ・ヒトラーに言及する」のは不穏なことだとして、「ドナルド・トランプはますます、抑えが効かなくなり、不安定になっている」と述べた。 ケリー氏の発言からもトランプ候補は「一般的なファシストの定義に当てはまる」とハリス氏は述べ、ケリー元補佐官のような人たちが周りにいなければトランプ候補は「まったく無軌道に好き勝手をする」ことになると警告した。 同日夜にCNN主催のタウンホール・イベントに単独で出演したハリス氏は、司会のアンダーソン・クーパー氏に、トランプ候補がファシストだと思うかと質問されると、「はい、そう思います」と答えた。 「それに、これについて(トランプ候補を)一番よく知っている人たちを、信用すべきだと思います」とも述べた。 激戦州ペンシルヴェニア州で開かれたこのイベントには、どの候補を支持するかまだ決めていない有権者が30人以上、参加していた。 ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は同日の定例会見で、ホワイトハウスとしてはケリー氏の主張と同意見で、トランプ候補はファシストの定義に当てはまると述べた。 「そう言っているのは私たち、ホワイトハウスだけではなく、前大統領と一緒に働いた元同僚たちがそう言っている」のだと、報道官は強調した。 ハリス副大統領の批判についてトランプ候補は同日夜、自分のソーシャルメディア「トルース・ソーシャル」で、「彼女はますます物言いを激しくして、こちらをアドルフ・ヒトラーとか、自分のゆがんだ頭の中に浮かぶことで手当たり次第に私を呼んでいる」と反論。ハリス氏を「カマラ・ハリス同志」と揶揄(やゆ)し、「民主主義にとって脅威だ」とも述べた。 トランプ候補は22日には、ノースカロライナ州で開いたタウンホールで、ハリス候補を「怠慢」で「ばか」で、民主党候補になれたのは人種とジェンダーだけが理由だったと攻撃。また、ハリス候補が大統領になれば「もうこの国はなくなるかもしれない」などと警告した。 ■【解説】ケリー元補佐官の警告で考えを変える人はいるのか アンソニー・ザーカーBBC北米特派員 トランプ政権経験者が前大統領を批判するのは、これが初めてではない。 これまでにマイク・ペンス副大統領(当時、以下同様)、レックス・ティラーソン国務長官、ウィリアム・バー司法長官、マーク・エスパー国防長官、ジェイムズ・マティス国防長官、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)などが口々に、トランプ候補を批判してきた。 しかし、首席補佐官を1年半務めたジョン・ケリー氏は、トランプ政権で最も影響力のある一人だった。誰が大統領に会うのかを含め日々のスケジュールを管理し、大統領に最も近い立場にいた一人だった。首席補佐官の前は、トランプ政権の国土安全保障長官を務めた。 だからといって、ケリー氏の最新発言が大統領選の軌道を根本的に変えるわけではない。ほとんどの有権者はすでに、前大統領について自分の意見をしっかり固めている。 ハリス陣営はこのところ、トランプ候補に対するこうした懸念を強調し、トランプ候補を支持しない無党派層や共和党の穏健派に働きかけようとしてきた。 ジョー・バイデン大統領は再選を目指して、トランプ候補は「民主主義への脅威」だと繰り返した。バイデン氏の代わりに民主党候補になったハリス氏は当初、この暗い警告をいったん横において、より前向きなメッセージを強調していた。 しかし最後の追い込みに突入している今、トランプ候補の危険性を強調することでどういう効果があるか試すため、ハリス陣営は攻撃範囲を拡大しているのかもしれない。 世論調査を見る限り、この戦術はまだ実質的な成果を出していない。しかし、ここまで激しい接戦の選挙となると、わずかな票の増加でも勝敗を左右する可能性がある。 (英語記事 Harris says Trump is a 'fascist', as former president calls his opponent a 'tax queen')
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