「辞めるタイ人が増える事態」 輝いていた日系企業の存在感に陰り タイのCEOが指摘する課題
■失敗恐れ即決できず
東南アジア諸国連合(ASEAN)における日系企業の橋頭堡(きょうとうほ)と言われてきたタイで、日系企業の存在感に陰りが見えている。人気が落ちて優秀な人材が集まらないどころか、「辞めるタイ人が増える事態」(関係者)に陥っている。日本に精通するタイのメディエーター社最高経営責任者(CEO)、ガンタトーン・ワンナワスさん(44)に日系企業の課題を聞いた。 (バンコク稲田二郎) 【写真】歩道が占拠されたタイの「サルの街」 タイで日系企業の進出が加速したのは1985年のプラザ合意以降で、90年代に製造業を中心に本格化し、現在は5800社超が拠点を構える。集団主義の傾向が強いタイと日系企業の相性は良く、多くの会社で経営は順調だったが、近年は立ち行かなくなりつつある。在タイ日本大使館の幹部は、タイにおける日本車の電気自動車(EV)の出遅れを例に、問題点として「決断の遅さ」「リスクを取らないこと」を指摘する。 ガンタトーンさんはその理由をこう分析する。 「戦後復興期の日本では松下幸之助や本田宗一郎、出光佐三、石橋正二郎などのカリスマ創業者がおり、彼らは即断即決ができて挑戦を繰り返してきた。だが、カリスマがいなくなってサラリーマン社長になると、合意形成に時間がかかるようになった」 何がヒットするか、予想が難しい現代。アジアのメーカーなどは、猛烈なスピードで事業のトライ・アンド・エラーを繰り返している。「日本企業は挑戦を続けるとの企業姿勢を掲げつつも、もし失敗すれば担当社員は冷や飯を食わされる。一回の失敗も許されない組織で新しいものは生まれない」。日系企業は100%成功できる1トライに重きを置き、商機を失っているように映るという。 「かつては携帯音楽プレーヤー『ウォークマン』など次々に新商品が出て、日本は輝いていた。仕事をたくさんくれて、タイ人も感謝していた」。それが中国、韓国、台湾の企業に取って代わられて仕事が減少。今のタイ人に日系企業は、目立った技術もないのにコストにうるさく、判断も遅い会社と捉えられ始めている。悲しいことだが、タイ人はよく、こう言う。「昔の日本人は優秀だった」