柔道・角田夏実が明かす″金メダルのビフォーアフター″「嬉しさよりも安堵感、続けてきて良かった」
パリ五輪柔道女子48㎏級で金メダルを獲得した直後から、角田(つのだ)夏実(32)の生活は激変した。テレビのバラエティ番組への出演など慣れない仕事をこなすなか、街中で話しかけられることも増えた。試合中にこめかみに貼っていた「頭の回転が速くなるテープ」の会社からはスポンサードの依頼も届いている。 【画像】爽やかすぎる…! 柔道家・角田夏実の素顔 「今はまだ、(喧騒の)流れに身を任せている感じですね。自分自身が有名になりたいというより、柔道家である自分を認めて欲しいとは強く思っていました。スポーツ選手って、承認欲求が強いじゃないですか(笑)。五輪金メダルの反響は、世界選手権などとは規模感が違います」 柔道のトップ選手は、東海大や国士舘大、天理大などいくつかの強豪校に分かれるが、角田は国立の東京学芸大出身だ。同大の柔道部は少人数で練習時間が短いため、角田は自(みずか)ら空いた時間で寝技の練習を積み、柔術など他競技の道場への出稽古も繰り返すことで巴投げから腕関節を極める勝ちパターンを確立していった。 「立ち技、寝技と分けて考える柔道とは違って、柔術は立ったり寝たりしながら、立ち技と寝技を連係して考えていく。そこが私にはマッチしました」 前回大会の東京五輪では角田は52㎏級の代表を狙っていた。同階級には日本柔道界のスター選手で、8歳下の阿部詩(24)がいる。詩は角田の寝技を苦手とし、勝率も角田が上回っていたが、角田は志々目(ししめ)愛(30)との相性が悪く、三つ巴の代表争いは阿部が制した。 「当時から詩はプレッシャーを抱えていたと思いますが、戦うたびに強くなっていく彼女に対して私自身が脅威に感じていた部分もありました」 ◆階級を落として気付いた”4kgの差” 角田は東京五輪を柔道人生の節目と考えていた。「年齢のことを考えると、パリは難しい」と思っていた。しかし、代表争いに敗れたことで階級を変更し、パリを目指すことを決断する。それも体重を増やすのではなく、減量苦と向き合うことになる48㎏級への転向だった。 「52㎏級時代は、減量の必要がほとんどなく、試合の日も51㎏ぐらいで戦ったこともありました。そこで思い切って階級を落としたんですけど、想像以上に4㎏の差は大きかった」 体重別で競われる柔道の場合、相手と戦う前、試合前日の計量までに規定の体重にまで身体を絞らなければならない。 「ダイエットだとリバウンドしないように時間をかけて体重を落としていきますよね。減量というのは、前日の計量時に規定の体重まで落としたあと、翌日の試合までにある程度、体重を増やす必要がある。過酷な減量をしていると、計量後に食事を摂っても、胃がビックリしちゃって、体重が戻らないし、動けない身体になってしまう。なかには試合当日の朝に、前夜に食事したことで眠れなくなり、体調を崩す選手もいる。だから私の場合、週に一度はチートデイを作って、思いっきり好きなものを食べて、胃を動かしておくような工夫もしていました」 減量を乗り越えて迎えたパリでは代名詞となる巴投げが冴(さ)え渡り、決勝でも技ありを奪って見事に勝利した。 「金メダルの瞬間は、嬉しさよりも、肩の荷が下りたという安堵感のほうが勝りました。何度も諦(あきら)めそうになったんですけど、続けてきて良かった。今後に関しては……肩のケガなどもあるので、年内は練習だけして、試合は来年からかな」 4年後のロサンゼルス大会に関しては明言せず、「これからは自分のために柔道を続けていきたい」と口にした。青畳に立ってこそ、彼女は輝き続ける。 『FRIDAY』2024年11月15日号より 取材・文:柳川悠二(ノンフィクションライター)
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