マタギに感銘 秋田にUターン、マタギ見習いになった33歳の試行錯誤
「マタギは不便な状況でも知恵で豊かにすることができる」と思った。山と共に生活する姿が妙に輝いて見え、マタギ見習いとして山歩きを開始。やがてツアーを考案し、手探りで進めてきた。 昨年末にあった「YOUは何しに日本へ?」の取材の際には12月30日に電話が鳴った。翌日の大晦日に取材をしたいとの打診だった。あわてて地域住民に相談した。ツアーの企画段階では自分の考えがすんなり賛同を得られないことも多かったが、年末の忙しいさなかだというのに皆即答で了承してくれた。 「注目してもらえて、いろいろな人がツアーを知ってくれるのはうれしい。テレビを見て地元の人からたくさん喜びの声があった」。ただ、狩猟のシーンが取り上げられる一方、自分が最も伝えたい「山に精通するマタギの魅力」にはスポットが当たらず、葛藤も残る。今は有志で運営しているが、ボランティアでは続かない。補助金に頼らない運営が目標だ。
地域とのはざまで悩むことはまだある。ツアーの新たな試みとして、山でふきのとうを摘んで天ぷらを作る案を出した。「山で油を火にかける?そんなのはやったことがない。ダメだ」。異論が出た。マタギ文化を伝えつつ若者や外国人が喜ぶツアーを用意したいが、すんなりとは進まない。
「もうやめた」と何度も言おうと思った。東京のほうが何でも簡単に手に入るし、暮らすのも楽だ。6歳の長女に「戻ろうか」と相談すると「私は、ここに住みたい」と即答される。娘にそう言われれば苦笑いをするしかない。 「YOUは何しに日本へ?」のあとも訪問者は続いている。
この記事は、復興庁の「新しい東北」情報発信事業として、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が実施した東北ローカルジャーナリスト育成事業の受講者による作品です。執筆:九島千春
九島千春