「脳の細胞は増減しないんです」…意外過ぎる認知症の原因!細胞の「レジリエンス」をあなたは知っていますか?
「夢のような話」の現実化へ
谷川 「夢のような」ということですが、その研究はいま、どれくらいの段階にあるんでしょうか。 山中 最近、始まった考え方なので、これで何か病気が治ったとか治りそうだという成果はまだないんです。たとえば皮膚や血液をつくる細胞はどんどん入れ替わって、一年もしたら全部入れ替わっています。 けれども脳の細胞は、生まれたときから基本的にはほとんど増えたり減ったりしないと言われています。以前はまったく増えないと言われていたんですけれど、いまは多少増えるということが証明されています。 また、加齢とともにいろいろ悪さをする物質がだんだん細胞に溜まってきて、それが原因で認知症になったり、パーキンソン病になったりすることもわかっています。 では、そうした物質をいかに溜めないようにするか、いかに減らすか。もしくは溜まっても病気にならないように余力を与えられないかというアプローチができるんじゃないかなと考えています。そういう形での健康寿命を延ばす挑戦も最近始めました。
1種類の細胞が原因で深刻な病に
谷川 それはつまり、老化した細胞を若返らせるということになるのでしょうか。 山中 そうです。「若返り」というと科学的ではないイメージを持たれるかもしれませんが、実際、たくさんの人が苦しんでいる病気のかなりの多くは細胞や組織の老化によって引き起こされている状態ですから、病気を本当の意味で治していくためには、いかに老化の速度を緩めるか、もしくはいかに老化で落ちた機能を戻すかということになります。 アルツハイマー病にしても、パーキンソン病にしても、脊髄損傷にしても、寝たきりになってしまう大変な病気ですけれども、原因は一種類の細胞だけなんです。 パーキンソン病は脳の奥の小さな領域でドーパミンという物質をつくる神経だけがダメになって全身が冒されます。アルツハイマー病は脳のかなり広い範囲ですけど、大脳皮質細胞という一種類の細胞の問題です。心不全も心筋細胞です。 だからその一種類の細胞の機能さえ元に戻してあげたら、その人は基本的に元気になるはずです。 いまは圧倒的に1つ目のアプローチが進んでいて、個別の病気やけがに対処するための研究が臨床に近づいています。2つ目のほうは、まだこれからです。 でも、もしかしたら5年後、10年後には逆転していて、老化のスピードを遅くしたり、細胞の余力を回復させたりすることができるかもしれません。 谷川 それが実現すれば、人間の新たな可能性が開けるかもしれませんね 『iPS細胞が「日本人の3人に1人が死亡する病気」を直すカギに⁉...「実用化が目前」夢のような「治療法」』へ続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/谷川 浩司(棋士)