JR東日本がAIによる音声注意喚起を実験導入! エスカレーターの「歩行規制問題」を考える
■エスカレーターの条例制定の効果は? ただ、この慣習を少しずつ変えることに成功している自治体も存在する。 2021年10月から「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を施行している埼玉県に、その効果を聞いてみると。 「県政世論調査の結果を見ると、駅でエスカレーターを『歩いて利用した』と回答した人は、条例施行前の2021年7月時点で35.1%であったのに対し、2023年度は21.6%と13.5ポイント減少。埼玉県では条例制定のほか、映画とコラボレーションしたポスターや啓発グッズなども展開し、さまざまな形でエスカレーターの安全利用を呼びかけています」 そして、日本で2例目、2023年10月にエスカレーター歩行禁止条例を施行した愛知県名古屋市からもこのような回答があった。 「エスカレーターを歩行する方の割合は、条例制定前が21.3%であったのに対し、直近の調査では6.7%と14.6ポイント減少しました」 このように、取り組み方次第で利用者の慣習も変えていけることもわかった。
■大宮駅の実証実験。その狙いは? そんな取り組みの一環が冒頭で紹介した埼玉のJR大宮駅で行なわれているエスカレーターでのAI実証実験。JR東日本に、実験の場として大宮駅を選んだ理由を聞いてみた。 「大宮駅は弊社において乗車数7位(2023年度)の規模の駅であること、また、埼玉県ではエスカレーター上の歩行を禁止する条例が定められていることから、駅をご利用されるお客さまにもエスカレーター上の歩行防止に向けた取り組みについてご理解が得られやすいと考え、実証実験の実施駅として選定しました」 AI技術による注意喚起に期待することは? 「常に音声を流すのではなく、エスカレーター上を歩いているお客さまに直接メッセージを伝えたいと考え、AI技術を用いることにしました。メッセージに気づいて、お客さまに立ち止まっていただけることを期待しています」 というわけで、実際に弊誌記者が大宮駅に行ってその効果のほどを確認してみた。まずは通勤通学ラッシュ時をチェック。 記者「通勤通学で急ぎたい時間帯のせいか、みんな右側を歩いちゃってますね。AIシステムで注意アナウンスをしているけど、人数が多すぎるから常に流れ続けている状態で、効果がなさそうです」 「エスカレーターは歩かないでください」というアナウンスが延々と響く中......ついに右側に止まって利用する男性(30代)を発見! 記者「なぜ止まりました?」 男性「埼玉では歩かないルールだからですよ」 記者「みんな歩いている中で勇気がいりませんでした?」 男性「多少はいるけど、危ないから、みんな止まったほうがいいですよ。高齢者や子供、体の不自由な方もいらっしゃるので」 後ろからのプレッシャーに負けず、正しい行動をとる人も少なからず存在した。 そしてラッシュ時を過ぎると......アナウンスにより歩くのをやめる人が続出。 記者「アナウンスで注意されてどう思いましたか?」 男性「無意識だったんで、歩いちゃってた......と気づきました。怖い声でなくかわいい声だったので、嫌な感じはしなかったです」 記者「今後は2列で乗りますか?」 男性「できればそうしたいですね。自分も右手で持っていたカバンにぶつかられて、イラついたこともあるんで」 混雑していない時間からコツコツと。AIシステムも、少しずつ効果を発揮しそうな予感だ。 最後に、世界中を飛び回るエスカレーターマニア・田村美葉氏にも、エスカレーターマナーについての見解を聞いてみた。 「これまで、イギリスのロンドンで右側あけを推奨するポスターや、中国・上海でステップの中央に線を引き片側あけを促すエスカレーターなどを見たことがあり、片側あけの慣習は日本だけのものではありませんでした。 しかし、最近は世界的に2列で歩かず乗ることを推奨する流れになってきています。だからこそ今、高齢者の多い日本が率先してエスカレーターでの歩行を止めていくのはとてもいいこと。日本の技術力によって、画期的に問題を解決する最新エスカレーターが出てきたらと願っています」 今はまだあまり浸透していないけど、日本のマナー意識と技術力でエスカレーター事故が減ることを願いたい。 取材・文/黄 孟志(かくしごと) 写真/時事通信社