『エクソシスト 信じる者』監督が語る、伝説の第1作で最も恐ろしかった瞬間「あの血が吹き出すシーンは、一番鮮明に記憶している」
ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』(73)は、1973年のクリスマスの翌日に北米公開を迎え、記録的な大ヒットと共に、第46回アカデミー賞で作品賞など最多10部門にノミネート。さらに2年近くにもわたる超ロングラン上映されるなど社会現象を巻き起こし、その後のホラー映画に多大な影響を与えた。日本でも翌年の夏に公開され、公開初日から各地の劇場に人が押し寄せる超満員のなかで、失神者が続出したなど数々の伝説がいまも語り継がれている。 【写真を見る】十字架で自慰行為に180度回る首…失神者も続出した『エクソシスト』の衝撃シーン それから半世紀の歳月を経て、同作の直接的な続編となる『エクソシスト 信じる者』(公開中)を手掛けたデヴィッド・ゴードン・グリーン監督は、“オカルトホラーの金字塔”と呼ぶにふさわしい『エクソシスト』の思い出を振り返る。「最初に観た時のことで一番鮮明に記憶しているのは、リンダ・ブレア演じるリーガンが腰椎穿刺を受けて血が吹き出すシーンです。あれは間違いなく、あの映画のなかで最も恐ろしい瞬間だったと感じました」。 そして「そのシーンがあったからこそ、流行のホラー手法で現代的な映画にするのではなく、どこか落ち着かない、観ていて辛くなるような知的な手法で『エクソシスト 信じる者』を作ることが許されたと思っています。またフリードキン監督は本物の人々を映画に起用し、単なるスーパーナチュラル映画とは違う感触を映画に与えてくれました。そこからインスパイアを受け、僕らの映画でも最後に登場する救急救命員や警察官は本物の方々を起用しています」と、今年8月にこの世を去った巨匠への敬意を示した。 ■「伝統的な悪魔祓い映画であれば、きっとヒーローとなって危機を救ってくれることでしょう」 今作で描かれるのは、悪魔に憑依された2人の少女をめぐる壮絶な物語。12年前に妻を亡くして以来、1人で娘のアンジェラを育ててきたヴィクター。ある日アンジェラは、親友のキャサリンと森へ出かけたきり行方不明となり、数日後に無事保護される。ところがその日を境に、彼女たちの様子に異変があらわれる。そこでヴィクターは、かつて憑依を目撃した経験者であるクリス・マクニールに助けを求め、悪魔祓いの儀式を始めることにするのだ。 「エクソシスト」シリーズの作品をはじめとする“悪魔祓い”をテーマにした映画の多くは、カトリックの神父を重要なキャラクターとして描かれてきた。しかし今作では、マドックスという神父が登場するものの、決して大きな役どころではない。その理由についてグリーン監督は「私がとても好きなストーリーの一つは、神父が自分の教会の人々やその隣人の努力を支援するためにそこにいるということです」と説明する。 「伝統的な悪魔祓い映画であれば、きっと彼がヒーローとなって危機を救ってくれることでしょう。でもマドックス神父は悪魔祓いをすることを禁じられ、家の外で待機して少女たちが無事であるよう祈ることにすべての情熱を注ぎ込みます。私がこの映画で描きたかったのは、観客に彼らが必ずしも期待していないようなものを与え、内面的な選択をするキャラクターを作りだし、ちょっとしたスリルも与えながら少女たちのなかにある悪魔の存在という力を目撃させることでした」。 それでも先述の通り、フリードキン監督の影響で“本物”をキャスティングすることにこだわったグリーン監督は、本物のカトリック教会の神父たちを劇中に登場させている。「彼らには台本はなく、マドックス神父役の俳優とアン役の俳優が彼らに質問をしていく様子や会話を撮影し、それをそのまま映画のなかで使用することにしました。彼らの言葉は実に洞察に富んだ内容であり、私はそこからとても多くのことを学ぶことができました」。 ■「1作目の『エクソシスト』との一体感をもたらすために、つながる要素を見つける」 本作のもう一つの注目ポイントは、『エクソシスト』でリーガンの母親クリス・マクニール役を演じた名女優エレン・バースティンが50年ぶりに同役に復帰を果たしたことだ。「多くの人たちにとっては、1作目の『エクソシスト』以来観たことがないシリーズだと思います。それとの一体感をもたらすために、オリジナルとつながる要素を見つけること、また個人的な視点からなにかを作ることは、私自身にとっても大きな意味と価値がありました」と明かす。 今年の12月で91歳になるバースティンは、『エクソシスト』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされると、翌年に出演したマーティン・スコセッシ監督の『アリスの恋』(74)で同賞を受賞。以後もコンスタントに映画出演を続け、ダーレン・アロノフスキー監督の『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)やクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14)など、現代の映画ファンにとっても馴染みのあるレジェンド女優だ。 「エレンとの最初の電話では、彼女が50年間演じたことのない役柄に足を踏み入れることができるように、彼女にとって意味のあること、彼女のキャラクターのストーリーの続きがどのようなバージョンになるのかを話しました」と、グリーン監督は振り返る。「劇中での彼女のモノローグは、その時の会話からインスパイアされたものです。彼女が感じているネガティブなエネルギーの領域や、その実態についてどう感じていて、エネルギーをどう動かしていくかということを掴むことができました」。 グリーン監督とバースティンは、単なる監督と俳優という関係性を超えて、スピリチュアルな観点から共に探究を重ねて作品を作りあげていったという。「私からはエレン・タッドの『The Infinite View』を、彼女からは『Conversation with God』という本をそれぞれ共有し合い、そこに記された存在の声や視点はどこから来るのかを共同で研究していきました。そしてそれは最終的に、我々のエクソシズムにおけるクリス・マクニールの視点になったのです」。 ジョン・カーペンター監督の名作ホラー「ハロウィン」シリーズを現代に蘇えらせた「ハロウィン」新三部作でも、レジェンド女優ジェイミー・リー・カーティスとの綿密なタッグでシリーズ第1作の直接的な続編を描きだし、見事なフィナーレへと導いたグリーン監督。果たして彼は「エクソシスト」をどのようなかたちで現代に呼び起こしたのか。その手腕に注目しながら、新たな恐怖の幕開けを見届けたい。 構成・文/久保田 和馬