<箱根駅伝>早大を引っ張る異色の浪人生ランナーコンビ
1年間の下積みを経て、山本と田口は、大学では1学年上になる大迫傑などには敬語を使い、大学では同期となる1学年下の選手たちにはタメ口で話しかけられるという新生活をスタートさせた。そして、「早稲田は強くなくてはならない」という信念を誰よりも貫いてきた。山本は1年時から主力として活躍。田口も2年時からチームには欠かせない選手になった。それでも、ふたりは箱根での“野望”をまだ果たせていない。山本は1年時から5区を任されたクライマーで、2年連続で区間3位と好走するも、前回は直前の故障で欠場。田口は前回9区で区間7位、前々回は10区で区間4位の走りを見せるも、最後のスプリント勝負で帝京大に先着された。今回がふたりにとって、最後の箱根駅伝。浪人時代を含めて10年間の思いをぶつける。 スポーツ推薦のエリート選手らを束ねてきた山本は「そういえば一浪だったなという感じで、すっかり忘れていました」と笑うが、「自分と田口はワセダへの憧れや、勝ちたいという思いは他の選手よりも強いかなと感じています」と話す。田口も「憧れのワセダで箱根を走ることができましたが、悔しい思いをしてきたので、箱根に対する気持ちはさらに大きくなっています。今回が最後なので、ふたりでチームを引っ張って、自分たちの集大成を出し切りたい」と気合は十分だ。 3度目の5区に挑む山本は、「前回の借りもありますし、キャプテンとして走らないといけない。後悔はしたくないので、全力を出し切りたい」とクールに燃えている。駒野亮太コーチが保持する早大記録(1時間18分12秒)がターゲットで、今回は慎重に準備を進めてきた。駒野コーチからは「オレのときよりも速く走れるぞ」と声をかけられるなど、今回は自信を持って山に向かうことができそうだ。 「自分の走りがしっかりできれば他大学の選手には勝てると思うので、とにかく自分の走りに集中したい。5区は宮ノ下(11.4km)を過ぎたところなど、急こう配の上りで差がつくと思うので、そこは根性かな(笑)。1年生のときは、初めてだったのでセーブして入った部分があります。2年生のときは向かい風の悪条件だったので、まだまだタイムは出せる。最低でも駒野さんの記録は超えたいですね。 チームの目標は総合優勝です。そのためには、往路は勝たないといけない。自分の役目としては往路の優勝テープを切ることだと思っています。ワセダというのはいろんな人が応援してくれますし、自分が早稲田にいるというだけで喜んでくれる不思議な力のある大学です。だからこそ結果を残して恩返ししたい」 ふたりが浪人をしていたシーズンに早大は出雲、全日本、箱根の「駅伝3冠」を達成しているが、入学後は一度もタイトルを獲得していない。主将・山本が目論見通りに5区でトップを奪い、当日変更で9区に入るのが濃厚な副将・田口で勝負を決めることができるか。 エンジのユニフォームに憧れて入学した山本と田口の一浪組が“失った1年”を最後の箱根で取り戻す。 (文責・酒井政人/スポーツライター)