見た目激変!ロック様、人生を変えるきっかけになった人物をアツく演じて新境地
そんなマーク・ケアーだが、実はドウェインと人生が交差した瞬間があったという。ドウェインは今や映画俳優だが、そのキャリアのスタートはプロレスラーだ。とは言え、もちろん、いきなりブレイクできるほどプロレスは甘い業界ではない。90年代、ドウェインはプロレスラーとして頭打ちの状態になっていた。思った通りに金を稼げず、ブーイングを受ける毎日に嫌気がさしたドウェインは、なんと総合格闘技への転向、しかもPRIDEへの参戦を本気で考えていたという。そしてこのPRIDE参戦に向けて相談した相手が、マーク・ケアーだったというのだ。この時、ケアーがドウェインにどのようなアドバイスをしたかは分からない。しかし、結果的にドウェインは総合格闘技には転向せず、プロレスのリングに上がり続け、「ザ・ロック」=「ロック様」として大ブレイクを果たす。さらに映画の世界に足を踏み入れ、今や世界中で大人気のスーパースターとなった。
そんなドウェインが、ケアーを演じる。なんという運命だろう。しかもドウェイン自身も、かつて鬱病に苦しんだ経験がある。そんな彼にとって、ケアーの人生は他人事ではないはずだ。総合格闘技とプロレスとでは性質は違えど、リングを仕事場に選んだ同業者として、同時代を生きた者として、心の問題を抱えた者同士として、何より人生の分岐点で相談をした仲として……ドウェインは並々ならぬ気合いを入れて、ケアー役に臨んでいるはずだ。それを証拠に、先日、ドウェインが劇中のシーンを公開したのだが……そこにいつもの問答無用に強くて、頼れて、無敵の「ロック様役」をこなすドウェイン・ジョンソンの姿はなかった。そこにいたのは、筋骨隆々でありながら、どこか不安を感じさせる、マーク・ケアーそのものだった。
A24は、プロレスの世界に生きた男たちの悲劇と再生の物語を描いた傑作、『アイアンクロー』(2023年)を放った。おそらく『The Smashing Machine(原題)』も、同様の“実録モノ”の作品になるだろう。しかも監督は『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)のベニー・サフディ、共演はエミリー・ブラント。まさに盤石の布陣である。この映画はドウェインにとって、俳優としての力量を試される戦いになるはずだ。難しい役どころだが、しかし成功すれば、彼は間違いなく俳優として次の段階に到達できる。渾身の主演作は、果たしてどのように仕上がり、何をもたらすのか? ドウェインのことを引き続き注視していきたい。(加藤よしき)