マー君の黒田流転向への賛否
与田氏が言うには、フロントドアと呼ばれるツーシームには、ボールゾーンからストライクゾーンに入ってきて手が出ずに見逃すボールと、「あえて甘めから入れて凡打を誘うボール」の2種類があるという。そのボールを打者にストレートと勘違いさせて、打者の直前で変化させるためには「どこからどこへ曲げるのか」「どこからどこへ落とすのか」という2つのポイントがあって、それをコントロールすることは簡単ではなく、しかも打者がストレートを意識するスピードが必要だとも説く。 「ツーシームを活かすためにも、フォーシームが少なすぎた。田中は本来、フォーシームピッチャーだと私は思うんです。這い上がってくるようなフォーシームがあってこその変化球です。握りだけを変えてボールを動かすツーシームは確かに肘への負担が少ないボールですが、ストレートではなく変化球ですから。なおさらフォーシームが必要です。その配球とツーシームの誤差に気づいただけでも、収穫の一敗でしょう」。与田氏も米国メディアのようにフォーシームの少なさを指摘したが、それは配球上のミスで、肘不安と結びつけたものではない。 ただ黒田とマー君の比較論で言えば、与田氏は黒田のコピーを簡単にできないという事情も説明した。 「ツーシームを使っていく方向性は間違っていないと思いますが、フォーシームピッチャーであると言うベースを忘れてほしくないですね。フォームや肉体のメカニズムも含めて黒田とは別人です。黒田はツーシームを使うためにフォームも改造して何年もかけて、スタイルを確立させました。精度を含め、その黒田のスタイルをすぐに真似るようなことは難しいのです。マー君は適応力の高いピッチャーですから、次にどう適応していくか楽しみじゃないですか」。確かに体を沈みこむようにタメをつくり、コンパクトなテイクバックで腕を隠すマー君の投球フォームと、固いメジャーのマウンドに合うように少し重心を高くして体の切り替えで打者を惑わす黒田のフォームではスタイルが違う。いずれにしろ速いボールがなければバッターの意識を前に移動させることができずに伝家の宝刀のスプリットも見極められる。実際、4回は、ツーシームからスプリット主体のピッチングに切り替えたが、その武器をヒットにされ、ファウルで粘られ、四球を与えることにもなってしまった。『140キロから144キロくらいまでのスピードしかなければ、対応しやすいんだ』と、対戦相手のエンカルナシオンやポンペイらブルージェイズの複数の打者が証言したが、そのツーシームを生かすためにも150キロをマークしたフォーシームをもっと見せておくべきだったのである。 ツーシーム中心の軟投派に見えるピッチングスタイルに対する雑音を封じ込めるのは、誤差を修正して1試合では早く結果を出すしかないのだろう。