北ミサイルはどこまで脅威なのか(上)日本の迎撃能力を超える量と技術も
■潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)
次に、最近になって北朝鮮が開発を進めている潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)について、考えてみましょう。 SLBMは、弾道ミサイルとしては、地上発射型の弾道ミサイルと違いはありません。異なるのは、潜水艦から発射することができるという点です。 歴史上、初期のSLBMは、潜水艦が浮上してから発射していました。現代のSLBMは、潜水艦が水中に潜ったまま発射可能となっており、北朝鮮も、この潜航したまま発射可能なSLBMを開発しているようです。 SLBMが、大きな意味を持つのは、プラットフォームである潜水艦が、海中を自由に移動できる点と、潜水艦であるため、姿を隠すことが容易であることです。SLBMの特質の一つは、潜水艦が海中を移動できるため、ミサイルの射程が目標に届かなければ、届く距離まで近づける点にあることは、誰しも理解できるでしょう。 ですが、日本にとっての脅威を考える場合、最も重要な特質は、北朝鮮とは別の方角からミサイルが飛翔してくることです。 弾道ミサイル防衛を実施するための第一歩は、飛翔している弾道ミサイルを発見することです。 発射された弾道ミサイルを、最初に補足するのは、発射炎の赤外線を捉える早期警戒衛星となります。しかし、この早期警戒衛星の情報は、弾道ミサイル迎撃を行うためには正確性に欠け、レーダーによる補足が必須です。 弾道ミサイル防衛用のレーダーとしては、通称「ガメラレーダー」と呼ばれるFPS-5が有名です。このFPS-5は、全周360度を監視するために、それぞれ120度の範囲をカバーする3つのレーダーが、3角柱の表面に取り付けられています。この中で、弾道ミサイルを補足追尾できるのは、1つの面だけなのです。 この他に、イージス艦のSPY-1レーダーやFPS-3改と呼ばれるレーダーも、弾道ミサイルの補足追尾ができますが、それぞれ弾道ミサイル用の特殊なモードを使う必要があり、弾道ミサイル追尾中は、他の機能が制限されます。 つまり、弾道ミサイルの補足、追尾を行うためには、ある程度の準備時間が必要なのです。しかしながら、潜水艦を使い、予想外の方位からSLBMを撃たれると、早期警戒衛星からの警報を受けて、これらレーダーの準備をしても、迎撃が間に合わなくなる可能性が高くなります。 しかも、実際の戦術としては、地上発射型弾道ミサイルの攻撃も同時に行われる可能性が高いと考えられます。 自衛隊としては、レーダーのリソースを、大量に発射される地上発射型弾道ミサイルに振り向けるか、意外な方向から奇襲を行うSLBMに向けるか、瞬時に判断しなければならなくなります。そして、そのリソース配分が間に合ったとしても、地上発射型弾道ミサイルを補足追尾するレーダーが減ることは間違いないため、対処能力が足りなくなる(飽和攻撃)可能性が高くなります。 このため、SLBMは、数が少なくとも、非常に脅威なのです。