『ペーパーマリオRPG』のリメイクが “どれだけヤバいか” を語らせてほしい。1作目からリアルタイムで追ってきたマリオファンが、『ペーパーマリオ』シリーズの刺激的すぎた「激動の歴史」を振り返る
ついに発売された『ペーパーマリオRPG』のリメイク。筆者はこのときを本当に心待ちにしていた。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 なぜなら筆者は超がつくほどマリオが大好きで、『ペーパーマリオ』シリーズも全作リアルタイムでプレイしており、なかでもシリーズ2作目にあたる『ペーパーマリオRPG』はイチオシの作品だからだ。 シリーズ1作目の『マリオストーリー』を正統進化させたシステム、いつものマリオとは違うシビアな世界、個性的すぎるキャラクター達、刺激的であり感動的でもあるシナリオなど、語り切れないほどたくさんの魅力が詰まっている名作が、いよいよ令和に蘇るのだから……涙なしでは迎えられない。 もともと『ペーパーマリオRPG』の人気は非常に高く、発売から20年経った今でも続編を望む声は絶えない。特に近年では『マリオ&ルイージRPG』シリーズの新作が出ていないこともあり、本シリーズにRPGを求める声は強まっている印象だ。そんな人達にとって、今回のリメイクは最高の朗報なのではないだろうか。 「昔の『ペーパーマリオ』シリーズは好きだったけど最近は追ってない」という“かつては紙”だった皆さんにも伝えたい。あなた達が帰るべき世界は、すでに開かれています。 そこで本稿ではリメイク版『ペーパーマリオRPG』の発売を祝して、本シリーズの歴史をファン目線で解説させていただきたい。 なぜ『ペーパーマリオRPG』だけではなくシリーズ全体の解説なのかというと、本シリーズの歴史があまりにも刺激的でユニークだからである。同じシリーズとは思えないほどの劇的な変化、それに伴うファン達の反応。こんなにも紆余曲折の歴史を歩んできたマリオシリーズは、『ペーパーマリオ』シリーズだけなのではないだろうか。 その歴史を紹介することで、『ペーパーマリオRPG』がリメイクされたことの “ヤバさ” と、シリーズの魅力をより深く伝えることができたら幸いだ。とはいえあくまでも全作品を追ってきたオタクの解説である為、偏った私見が多々入っていることはご留意頂きたい。 文/ロジー 編集/柳本マリエ ■始まりの『マリオストーリー』 『ペーパーマリオ』シリーズの始まりは、2000年にNINTENDO64で発売された『マリオストーリー』だ。最初の作品でありながら非常に高い評価を得ており、いま遊んでも全く色褪せない名作である。 基本的なシステムは既にこの時点で完成されており、初めて本シリーズに触れる方にもお勧めだ。大抵のシリーズものは洗練された2作目以降を勧めたくなるものだが、本シリーズは1作目から勧めたくなってしまう。従来のRPGとは違いダメージ数が少なく計算しやすかったり、難易度も控えめになっていたりと「初心者に優しい作り」なのがありがたい。 そしてその優しい作りは全体的なデザインにも反映されており、本作は絵本の中のようにほんわかした雰囲気となっている。登場するキャラクター達もかわいらしく親しみやすい。 一方で用意されている各ステージはどれも尖った魅力を持ち、プレイヤーを飽きさせない。急におもちゃ箱の中が舞台になったと思いきや、次にはジャングルでの大冒険が待っている。中には倒すことができない不死身の敵から逃げ回るという、トラウマになりかねないステージも用意されているのだ。 そして、道中でパーティに加わるなかま達が非常に魅力的なのも特徴のひとつ。彼らは『スーパーマリオブラザーズ』などでマリオと敵対したキャラ達が元となっているようだが、バトルではそれぞれ能力を発揮する為、自然と愛着がわいてしまう。 クリボーやノコノコなどのいつものキャラもいれば、ちょっとマイナーなケセランが元となっているであろうキャラもいる。この世界では皆が悪い敵ではないのだ。 ほかにも『スーパーマリオRPG』のような、アクションコマンドを成功させることでダメージが増減するバトルシステムや、装備品のように付け替えることで様々な効力を発揮するバッジシステム、多くのアイテムを組み合わせることで大発明ができるお料理など、見た目のかわいさに反してゲーム内容が奥深い。 加えてレベルアップ時に好きなステータスをひとつ強化できる仕様もある為、人によってプレイに差が出るのも面白いポイントだ。これが、何周遊んでも飽きない理由にもなっている。 しかしながらRPGで重視されがちなシナリオ面は特別深いわけではない。マリオ達にはピーチ姫や世界を救う使命があるだけで、物語に複雑な設定や内容は絡まない。 あくまでも「王道でわかりやすいストーリー」となっている。 とはいえステージごとにメリハリのある展開が用意されており、ラストも非常に感動的な為、クリアした際の満足度は非常に高い。 どこを食べてもおいしい、20年以上前のタイトルとは思えない完成度を誇る『マリオストーリー』。本作は「Nintendo Switch Online + 追加パック」に加入すればNintendo Switchでプレイできるので、シリーズの原点に興味がある方はぜひ触れて頂きたい。 マリオと愉快なキャラクター達が素敵な世界であなたを待っています。 ■伝説となった最高傑作『ペーパーマリオRPG』 『ペーパーマリオ』シリーズ2作目は、紙ゲーであり神ゲー『ペーパーマリオRPG』。 2004年にニンテンドー ゲームキューブで発売された本作は、世界中のファン達から “最高傑作” と呼ばれることが多い、超が付くほどの名作だ。 リアルタイムでプレイしていた筆者も、度肝を抜かれたことを覚えている。 いつものマリオでは味わえないダークな世界、前作より個性的になっているキャラクター達、意外性に溢れたシナリオの数々、そして続編に求められている「正統進化」をこれでもかと完璧にこなしたゲーム内容……あまりにも完璧な続編であった。 まずバトルが面白い。もうめちゃくちゃ面白い。 ほかのRPGでは戦闘を避けてばかりな筆者が、自ら敵に猪突猛進してしまうぐらい面白い。 それもそのはず。前作『マリオストーリー』の時点で完成度の高かったバトルシステムが、「観客システム」によりさらに進化しているのだ。 基本的な流れは前作同様だが、観客達から貰える声援「スターパワー」を集めることで戦況をひっくり返すことができたり、舞台が劇場となったことで背景が倒れてきたりなどのハプニングが発生するようになった。 そして新たに登場した要素「アクロバット」を練習していれば、攻撃に転じながらたくさんのスターパワーを稼ぐことができる。 このアクロバットは従来のアクションコマンドとは別に存在しており、攻撃前か攻撃後のどこかに発動タイミングが潜んでいる。発動タイミングはワザによって違う為、それを見つけて利用していくのがまた楽しいのだ。 また、敵の攻撃を完全に無効化した上で直接攻撃に対しては反撃までできる「スーパーカード」の存在も大きい。上手く使えば理論上ノーダメージ勝利が可能という、かなり夢のある仕様だ。 成功の確率は低く普通にガードした方が楽な場面も多々あるが、それでもリターンを考えると狙ってみたくなる魔力がある。 とはいえこれらのシステムを使わなくてもクリアはできるようになっている為、あくまでも上級者向けの要素として用意されているところも上手い調整だ(恥ずかしながら筆者は初見プレイ時、アクロバットもスーパーガードも一切使わずにレベルでゴリ押してクリアしてしまった)。 バトル以外で本作の素晴らしいポイントを挙げるなら、やはり世界設定とシナリオだろう。 本作の拠点となるのは、スリやマフィアが蔓延る街「ゴロツキタウン」。この時点でいつものマリオとかなり印象が異なるが、さらに刺激的なのが各ステージを彩るシナリオ展開だ。 最初こそ王道のドラゴン退治が繰り広げられるが、途中からは闘技場の闇を暴くストーリーや、マリオがなかま達と敵対するストーリーなど、インパクトの大きいシナリオが続く。そして最後の衝撃的な種明かしや、とあるキャラの切ないストーリーなど、人によってはかなり刺さる内容が展開される。 加えて同時に「ピーチパート」と「クッパパート」も進行しており、それらが最後に収束していく様もじつに痛快だ。 ほかにも勝ち気でちょっとマリオに気がありそうな女子大生「クリスチーヌ」や、魅力的なボディが凶器(本当に)の「クラウダ」、普段はショップの店員をやっている勝気な怪盗「チュチュリーナ」など、誰かしらに刺さりそうなキャラがたくさん登場する。 さらに悪役サイドも非常に魅力的だ。たびたび登場する幹部ポジションの「ペケダー」はちょっと抜けていて憎めないし、敵組織のボス「メガバッテン」は純粋な悪役として登場する。 中でも下記のキャラクターが印象に残っている人は多いのではないだろうか。凶悪な能力を持っていながらもどこかかわいい。そんなギャップがたまらない。 そして道中で出会うサブキャラ達も魅力的な者達が揃っている。 最初こそ「なんだコイツ!?」と思っていたキャラが意外なところで活躍したり、その正体に驚かされたりなど、ギャップによるエモさがたっぷり詰まっているのだ。 中でも筆者のイチオシはステージ5に登場する「マルコ」だ。あまりにもうさんくさい見た目で、中身も想像通りの頼りなさなのだが、最後にはちゃんと見せ場が用意されている。どのキャラクターも腐らないのだ。 ほかにも、“紙らしさ” を活かして狭い隙間に入れたり、メインストーリーとは別に用意されたやり込み要素などなど、本作の魅力はとどまることを知らない。全てを語ってしまうと本稿が『ペーパーマリオRPG』を激推しするだけの記事となってしまうので(もうなっている気もするが)、今回はこれぐらいにしておこう。本当に令和のいまリメイクを遊べるのがうれしすぎる! ■次元を超えた『スーパーペーパーマリオ』 『ペーパーマリオ』シリーズ3作目は、2007年にWiiで発売された『スーパーペーパーマリオ』。 前作『ペーパーマリオRPG』が大傑作だったことから、多くのファン達は「RPGとしての続編」が出ることを望んでいたのだが…… 実際に発表された3作目は、我々が全く予想できないジャンルに変貌していた。 え? 2Dアクション!? なんと、アクションRPGからアクションアドベンチャーへと生まれ変わっていたのである。 全く違うジャンルに変貌したことから、ファン達は困惑。当時は「過去作みたいなRPGがやりたかったのに……」という声が多く聞こえてきたものだ。しかしいざ遊んでみると、 面白い。 めちゃくちゃ面白い。 まず「2Dと3Dを切り替えて冒険できる」という斬新な新要素が非常にユニーク。基本的には2Dアクションのような画面だが、「次元ワザ」という新要素を繰り出すことで画面が2Dから3Dへと切り替わるのだ。 そしてRPGのようなバトルはなくなったものの、経験値システムは継続。本作でもマリオ達を育成することができる為、RPGファンのニーズにも応えている。 また、本作ではプレイアブルキャラに「マリオ」「ピーチ」「クッパ」「ルイージ」の4キャラクターが用意されているのだが、マリオは次元ワザ、ピーチはパラソルによる滑空や防御、クッパは火炎放射による遠距離攻撃、ルイージは高いジャンプを繰り出すことができるなど、各キャラクターごとの個性も楽しめる。 特にクッパは機動力が低い代わりに攻撃力が常に2倍となっている為、多くのプレイヤーから愛されたのではないだろうか。 そのうえでさまざまな効果を発動できるサポートキャラ「フェアリン」が11種類も存在している為、遊びの幅は見た目以上に広い。 さらにクリア後のやり込み要素もシリーズ最大規模で、コレクト要素やサブイベントが盛りだくさん。隠しダンジョンや隠しボスも存在しており、シリーズファン向けの要素が手厚く用意されている。 そして何よりも『ペーパーマリオ』シリーズのファン達が喜んだのは、感動的なストーリーだろう。これまでのストーリーもファン達から好評であったが、本作も非常に気合が入っている。過去2作ではかわいらしいキャラとちょっとダークな世界が人気であったが、本作ではオリジナルキャラ達が紡ぐドラマチックなストーリーが展開されるのだ。 この雰囲気は、いつものマリオとは違うものを求めていたファン達にはたまらないものであった。シンプルなストーリーが多いマリオゲームとのギャップもあり、多くのファン達を魅了することに成功しているだろう。 筆者の周りでは「ストーリーがいいマリオゲームって何?」という話題になると、令和になった現在でも必ずと言っていいほど本作の名が挙がる。個人的にはマリオキャラも深く関わる『ペーパーマリオRPG』のシナリオの方が好みではあるが、感動という観点では本作が最上位であることは間違いない。 オリジナルキャラ達のぶっ飛び具合も最高だ。オナラで空を飛ぶ巨漢「ドドンタス」、化け物に変貌する少女「マネーラ」、意味深な言動で常に暗躍している道化師「ディメーン」など、どうあがいても記憶に残る曲者が勢揃い。 これらのキャラはいまだにファンアートが描かれるほどの人気を獲得しており、マリオシリーズには珍しく、オリジナルキャラが人気の作品となった。 とはいえマリオ達の活躍も負けてはいない。マリオはしっかり主人公ムーブをするし、さらわれがちなピーチも本作では力強く活躍する。クッパは劇場版ジャイアンのようにイケメンセリフを連発するし、ルイージは……いいや違う。彼の名は「ミスターL」。ちょっとおっちょこちょいでナイスガイなミドリの貴公子だ。 そしてぶっ飛びすぎて特に話題となったキャラクターがこちら。 _人人人人人人人_ > カメレゴン <  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄ この “いかにもな見た目” のキャラの名は「カメレゴン」。アニメや漫画などが大好きで、自分の城にはたくさんのメイドニャンを配置しているオタクである。彼は当時、話題となっていたアキバ系の要素をこれでもかとたっぷり詰め込まれたキャラクターなのだ。 いや……なんでこんなキャラがマリオゲームに……!? そして彼の部屋に貼られているメモを調べると、作画や監督の良し悪しについて語る生々しいアニメ批評も読むことができる。 しかもカメレゴンと出会えるのは「カワイコチャン」であるピーチ姫だけで、会話は恋愛ゲーム風の「ドキドキ♡おしゃべりモード」で行う。ただの演出ではなくちゃんと選択肢を選んで進めるゲームになっており、テキストが複数パターン用意されている力の入れようである。 このようにとにかく刺激が強い本作だが、求められていたRPG要素や『ペーパーマリオ』感がこれでもかと含まれていた為、ジャンルは変われどファン達の心はしっかり掴んでいた印象だ。 事実として2020年に筆者のYouTubeチャンネルで行った全マリオゲームを対象にした人気投票では、1位の『スーパーマリオギャラクシー』2位の『スーパーマリオギャラクシー2』に次ぎ、本作が3位という結果になった(1624人ものマリオ好きな方々に選んでもらったので、中々正確な結果ではないかと思う)。 一方で “マリオゲームである意味” が薄くなっていることから、本作発売後には「マリオタイトルとしてはどうなのか」という意見も目にするようになった。 確かにストーリーはドラマチックでキャラクターも最高だ。ゲーム内容もマリオらしいジャンプアクションがメインである。だがそれでも、いつものマリオゲームから離れてきていることは筆者も感じていた。 次回作もこの流れが続くのだろうか、それともさらにマリオゲームから離れてしまうのだろうか。できればもう一度「RPGを遊びたい」という気持ちもあるのだが……。 さまざまな期待や不安が入り混じる中、いよいよあの作品が登場する。 そう。全世界のペーパーマリオファンにとてつもない衝撃を与えた、あの作品が。 ■『ペーパーマリオ スーパーシール』の衝撃 『ペーパーマリオ』シリーズ4作目は、2012年にニンテンドー3DSで発売された怪作『ペーパーマリオ スーパーシール』(以下、『スーパーシール』)。いまもなお、ファンのあいだでさまざまな意見が飛び交う超話題作だ。 前作『スーパーペーパーマリオ』はRPGではなくなったものの、多くのペーパーマリオファンを魅了した名作であった。アクションアドベンチャーとしての面白さはさることながら、普段のマリオでは味わえない “エモさ” を十分に楽しむことができた。 一方で「今度こそはRPGの新作を出してほしい」という意見も多く挙がっていたように思う。もちろんアクション路線を望む声もあったが、『ペーパーマリオ』シリーズが『スーパーマリオRPG』から派生したシリーズということもあり、ファン達の多くはRPGの路線を求めていた印象だ。 そんななか2010年に米国のロサンゼルスで開催されたE3にて、第4作目の開発中のスクリーンショットがお披露目されたのだが……そこには新しいなかまと共に戦うペーパーマリオの姿があった為、『マリオストーリー』や『ペーパーマリオRPG』のファン達は大喜び! 「RPGの新作を出してほしい」という願いが届いたかのように思えた。 しかしながら、実際に発売された『スーパーシール』は…… 想像していた内容と異なる、超が付くほどの賛否両論作であった。 シリーズ初の携帯機(ニンテンドー3DS)で発売された本作は、手に入れたシールをバトルや謎解きで使うという全く新しいシステムだったのである。ほとんどの遊びはシールで完結しており、過去作にあった経験値や育成要素などは存在しない。 過去作のようにFPを使用して特殊ワザを繰り出すといった要素もなく、代わりにさまざまな性能違いのシールや「モノシール」という現実世界の備品を用いて戦っていく。これらはフィールドでも使える為、本当にシールだけで解決していくゲームとなっているのだ。 装備品などもなく、HPは道中に隠されている「体力UPハート」を拾うことで増加する。発売前に発表されていたなかま要素も製品版では実装されず、冒険するのはマリオと相棒のルーシーのみ。今までのシステムを全てリセットしたかのような全く新しいペーパーマリオが、そこに誕生していたのだ。 しかし本作のシステムが賛否両論を生んでいるわけではなかった、と推測している。実際に遊んでみると、本作のシールシステムはわかりやすくテンポもよい。 また、ワールドマップが登場したことにより移動も楽になり、ステージ内ではスタートボタンを押すことで即離脱することもできる。 過去作では同じ道を何度も繰り返し歩かされることもあったが、本作ではそのような煩わしさはほとんどない。全体的に昔より遊びやすくなっているのだ。 ではなぜ本作はファンのあいだで長年議論されるほどの作品となったのか。 それは世界設定やシナリオ、キャラクターなどの要素がシンプルなものに置き換えられたからだろう。 『ペーパーマリオ』シリーズにファン達が求めていたものは、おそらく普段のマリオでは味わえない「シナリオ」「世界設定」「キャラクター」であった。少なくとも本シリーズのコアなファン達はそうだったはずだ。前述した通り、RPGとしてのペーパーマリオを楽しみにしていた層が厚かったのである。 しかし本作はその魅力が全て一新されている。シナリオはシンプルなものになり、登場する住民はほぼキノピオのみ。敵キャラも『スーパーマリオ』シリーズからのみ選出され、原作に合わせたデザインに統一された。クッパに関してはなんと、ひと言も喋らない。ただ敵として存在しているだけである。 一応オリジナルキャラとして相棒ポジションの「ルーシー」が登場しているが、逆に言えばオリジナル要素は本当にこれくらいしか見当たらなかった。 なぜこのような劇的すぎる変化が起きたのか。それは発売前に公開された本作の「社長が訊く」を読むことで、ある程度は知ることができる。 簡潔にまとめると、開発スタート時はRPGとして作られていたが、実際にできたものが『ペーパーマリオRPG』と変わり映えがしなかった為、全ての要素をシールに集約した新しいゲームにする道を選んだのだという。 あらかじめ「世界観を一新すること」も決まっていたようで、その過程でシナリオなども必要以上のものは描かれない方針になったようだ。詳しくは実際に社長が訊くを読んで頂きたい。つまるところ「本当にオリジナルキャラや深いストーリーは必要なのか」と、そういう話だ。正直、納得する部分も多い。 ここからはマリオが大好きな筆者による個人的な感想を少し書かせてほしい。先述した通り本シリーズは作品を重ねるごとに良くも悪くもマリオから乖離していった。 『ペーパーマリオRPG』ではマリオらしからぬダークな世界が増え、『スーパーペーパーマリオ』に至ってはシナリオもマリオである必要性が薄まっていたように思う。 もちろん筆者はそのようないつもと違うマリオの世界も大好きだ。しかしながらマリオから離れていることも気になっていた為、一度どこかで「リセットする必要」があったのではないかと感じている。本シリーズをさらに発展させる為にはファンに受けるだけのゲームではなく、新しいファンを獲得する必要があったのだろう。 しかしこの激的な変化は多くのファン達に衝撃を与え、当時は既にSNSが発達していたことも重なり、全世界で大激論が巻き起こることになってしまった。あくまでも筆者が当時のマリオ界隈を見てきた個人的な視点となるが、ファンのあいだでは7~8割が『スーパーシール』に対して否定派に回っていたことを覚えている。 タイトルに「ペーパーマリオ」と入ってはいるものの、この変貌っぷりに「もうついてはいけない」というファン達を多く生んでしまったのだろう。 しかし近年は本作を『ペーパーマリオ』シリーズで初めてプレイしたという方々がSNSで発信するようになり、「『スーパーシール』がいちばん好き」「賛否両論だなんて知らなかった」という声も多く聞こえてくるようになった。 魅力こそ一新されたが『スーパーシール』は間違いなく面白いゲームだ。携帯機で気軽にプレイできる良質なアクションアドベンチャーである本作は、当時の子供達の心をしっかり掴んでいたのだろう。 昔からネット上では散々な評価を受けることもある本作だが、最近は好きな人たちによる愛のある声もよく聞くという話は添えておきたい。 ■不遇の名作『ペーパーマリオ カラースプラッシュ』 そしてやってきた、シリーズで最も不遇な名作『ペーパーマリオ カラースプラッシュ』(以下、『カラースプラッシュ』)。 『ペーパーマリオ』シリーズ5作目である本作は、2016年にWiiUで発売されたのだが、発売前はさまざまな評判を目にすることとなる。 まず前作『スーパーシール』の発売後、時が流れるにつれファン達の不安は積もり続けていた。このまま『ペーパーマリオ』シリーズは『ペーパーマリオ スーパーシール』の路線に舵を切るのだろうか。もうRPGのような楽しみ方はできないのだろうか。 この時期はファン達のネガティブな意見もよく見かけた。 その一方で、これだけ多くの否定意見も出たのだから「今度こそRPGに戻るだろう」「次こそは普段のマリオでは味わえない世界が待っているはずだ」と希望を持つ者達もいた。やはりRPGが好きだったファン達は『マリオストーリー』や『ペーパーマリオRPG』が忘れられないのだろう。 全世界のファン達が本シリーズの動向に注目していた。 そしていざ第5作目が発表されると……多くのファン達は困惑することとなる。映像に映し出されていたのはカードで戦いカードで謎を解くペーパーマリオだったからである。 もう一度言おう。 “カードで戦い、カードで謎を解く” のだ。 つまりこれって……『スーパーシール2』!? 実際今回も戦うのはマリオだけで、シナリオも複雑なものではない。登場人物は相棒の「ペンキー」を除いて『スーパーマリオ』シリーズのキャラに限られており、住民はほとんどがキノピオ。敵キャラ達も既存のキャラがそのまま採用されている。 新しいシステムとして色を塗る要素「ペイント」も発表されたが、当時のファン達の多くはそれどころではなかった。皆が感じていたのは「新作が『スーパーシール』の続編だった」ということ。その一点のみであった。 少なくとも発表された当時、本シリーズファンのほとんどがそう感じていただろう。 これにより多くの『ペーパーマリオ』シリーズファン達は荒れに荒れていた。公式トレーラーには大量のバッド評価が投下され、一部では発売中止を求める署名運動まで起きた。長年マリオファンをやっている筆者だが、このような反響を呼んだマリオゲームは後にも先にも本作しか思い浮かばない。 それほどまでに前作『スーパーシール』の影響力はすさまじく、RPGを期待していたファン達が想像以上に多かったことが浮き彫りになった出来事であった。 ハード自体がWiiUからNintendo Switchに移行する直前だったという不運も重なり、売上も本シリーズ最下位を記録してしまう。実際、筆者の周りにいたマリオファンのあいだでも購入している者は少なかった印象だ。 発売前の前評判は最悪中の最悪。そのうえ売上も振るわないという悲惨な境遇である本作。しかしこれだけはハッキリと声を大にして言いたい。 『カラースプラッシュ』は間違いなく名作であった、と。 まず本作は『マリオストーリー』や『ペーパーマリオRPG』のような魅力的な世界になっている。冒険の舞台はコロシアムやホラーマンション、デジタル世界に霧のサーカスなど、シリーズ屈指の豊富さで描かれており、シナリオ展開もさらにメリハリのある内容に進化していた。 新要素のペイントは発売前こそあまり期待されていなかった印象だが、遊んでみるとクセになる面白さだった。白抜けを埋めると即報酬が発生する為、見つけたらついつい塗ってしまう。この要素はバトルでも活用されており、ペンキの残量を気にしながら色をつけて攻撃力を上げるという新たな戦略性を生み出している。 そしてペンキの残量を増やすことができるシステムが登場し、実質経験値のような仕様も復活。全て語ると長くなってしまうので省くが、『スーパーシール』で遊びづらかった点はほぼ解消され触り心地もかなりアップしているように感じた。BGMも過去作に負けず劣らず素晴らしく、サウンドギャラリーも実装されている。 筆者は本作をクリアした時にこう思った。「むかし愛したペーパーマリオの魅力が戻ってきている」と。 相変わらず住人はほとんどがキノピオだし、敵も既存キャラ。マリオの後ろをついてくるなかまもいない。バトルもカードやペイントを駆使した新しいものだ。 しかしそれでもこの冒険感やワクワク感、そしてエンディングの達成感は、初期2作品に近かった。逆張りをしているのではなく、本当にそう感じさせるものがあったのだ。 とはいえ「『カラースプラッシュ』も面白いから遊んだ方がいいよ」と言ったところで、周りのファン達は聞く耳を持たなかったのが現実だ。彼らは『マリオストーリー』や『ペーパーマリオRPG』の新作でも出ない限り、帰ってこないのかもしれない。 改めて初期のRPG路線の強さを再認識したと共に、なかなか報われない『カラースプラッシュ』を不憫にも思った。本稿を読んで少しでも気になったら(そしてもしWiiUを持っていたら)ぜひ遊んでみてほしい。最初こそWiiUゲームパッドを使ったバトルが煩わしく感じるかもしれないが、慣れてしまえばかなり楽しめるはずだ。設定で「じょうきゅうタッチそうさ」に変えてみると、テンポ感も向上するのでお勧め。 ■限界まで攻めた『ペーパーマリオ オリガミキング』 『ペーパーマリオ』シリーズ6作目は、2020年にNintendo Switchで発売された『ペーパーマリオ オリガミキング』(以下、『オリガミキング』)。 前作『カラースプラッシュ』のゲーム内容は風向きがいい方向に変わってきたことを感じさせるものだったが、どんなに面白い内容でも『スーパーシール』に似ているというだけで遊ばない層は厚かった。 しかし混沌が続いた本シリーズは『オリガミキング』により見事な復活を果たす。本作はファン達から愛される人気作となり、売上もシリーズ最高クラスまで回復している。 まさかの一発逆転だった。なぜここまで人気が返ってきたのだろうか。 理由はいろいろ考えられるが、まずファンに受けたのは「色濃くなったシナリオ」だろう。開幕からいつもと違う怪しい雰囲気のピーチ姫が登場したと思えば、マリオを突き落とす。そんな衝撃映像が初報で公開されたのだから、SNSでは大バズり。 すでにNinteno Switchが人気ハードとなっていたことも重なり、多くのユーザーの注目を集めていた。 そして本作の世界は久々にダークだ。突如として現れたオリガミの勢力によりクッパ軍団が次々とオリガミ兵へと変えられていくのだが、なんとオリガミに折られた者は二度と本来の姿には戻れない。最初に登場した恐ろしい雰囲気のピーチ姫も、オリガミに折られていたのである。 最初から強烈なホラー設定が登場するのだから、ワクワクが止まらない。 そしてそんな世界を一緒に冒険するのが、久々に帰ってきたなかま達だ。本作では『マリオストーリー』や『ペーパーマリオRPG』のように、なかまがマリオの後ろをついてくるシステムが復活。過去作と異なり舞台が変わればキャラも変わるのだが、バトルにも参加し、テキストも大量に用意されている。 そのうえで、いままでの「なかま」という存在を逆手にとった恐ろしいギミックも用意されており、その演出は多くのプレイヤーの心を揺さぶったことだろう。 さらに、オリジナルキャラや住民、敵キャラなどにもかなりのテコ入れがなされていた。まずクッパが敵ではなくマリオ達の味方ポジションだった。悪役を担当するのはオリジナルキャラの「オリー王」で、今回の相棒ポジションである「オリビア」の兄。 久々にオリジナルキャラ同士のストーリーが繰り広げられる為、過去作からのファンには刺さる内容だろう。 住民は変わらずキノピオが中心だが、それを逆手にとった設定やゲームデザインもなされており、納得感はグッと上がっている。いたるところで酷い仕打ちを受けていたり、中には変なセリフを発していたりと、ついつい触れあいたくなってしまう。 そしてクッパ軍団が味方ということもあり、いつもの敵キャラ達が住人ポジションに回っているのもおいしい変更だ。敵キャラの種類だけNPCのバリエーションが豊かになっている為、『スーパーシール』や『カラースプラッシュ』のようにキノピオ一色にはなっていない。 そのうえでボス達も非常に魅力的だ。いままでマリオが使用していた「モノ」がまさかのボスとして登場するのだが、彼ら「ブンボー軍団」はそれぞれが強烈なキャラ付けをされており、これまた刺さる人にはとても刺さる。 たとえば「ハサミ」は楽しそうにクッパ軍団を切り刻み、それらを貼り付けたモンスターを仕掛けてくるサイコっぷり。見た目はただのモノなのだが、それを活かしたイカれたキャラクター性が、プレイヤーの心を大きく揺さぶる。 また、魅力的なのはシナリオやキャラだけではない。本作の冒険の舞台はこれまでよりも大きくスケールアップし、シリーズで最もフィールドが広く立体的な構造になっている。 その上でワールドマップは廃止され、久々に全てが繋がっているような世界に戻っているのだ。移動が苦にならないような工夫も施されており、テンポ感も損なわれていない。フィールドデザインも非常に魅力的で、どれも目を奪われるような光景だ。 BGMも非常に高く評価されており、なんとバトルBGMがエリアごとに変化するようになっている。同じ章内でもエリアを移動すれば別アレンジとなる為、次はどんなバトルBGMが聴けるのかとワクワクが止まらない。この贅沢な仕様はリメイク版『ペーパーマリオRPG』にも引き継がれる形となったようだ。 バトルは新感覚のパズル性が強いものに変化していた。バトルフィールドにはマス目が存在し、それらを回転させ敵を揃えることができれば一網打尽にできるというシステムだ。 パズルが苦手な筆者には後半の難易度がやや厳しいが、コインを観客たちに投げれば自動で成功させてくれるので、新感覚なだけでなく誰でも遊べるバランスに仕上がっているのも素晴らしい。そして「カミさま」という要素を駆使したド派手な戦闘は、今までにない爽快感抜群な内容になっている。 何よりも筆者が感動したのは、シリーズファンが求めていた要素が詰め込まれていたことである。『スーパーシール』や『カラースプラッシュ』ではいつもの既存のマリオキャラしか登場せず、『ペーパーマリオRPG』の「クリスチーヌ」のようなクリボーがいない。おそらく何らかの理由で既存のマリオキャラは改変しないという方針なのだろう。 しかし本作でなかまになる「ボムへい」は相棒のオリビアから「ボム平」さんと呼ばれており、見た目も導火線を失った姿となっている。つまりシリーズファンが求めている「改変されたマリオキャラ」という存在が結果的に描かれているのである。 このようなファンサービスが随所に見られる点も、多くのファンに愛されている要因だろう。制約があるなかでここまでやってくれるのかと、筆者もクリアした時には感謝の気持ちでいっぱいであった。 だからこそ「最近の『ペーパーマリオ』シリーズはちょっと……」と思っている方に、本作を手に取ってもらいたい。きっと楽しめる要素がたくさんあるはずだ。 ■そして再び『ペーパーマリオRPG』のトビラが開く 2024年5月23日。ついに『ペーパーマリオRPG』がリメイク版となり我々の元に帰ってきた。 今でも夢のようだ。 もうRPGのペーパーマリオは帰ってこないものだと諦めていた。『スーパーペーパーマリオ』以降も面白いペーパーマリオが出続けていたのだから、もう変にRPGにこだわらず踏ん切りをつけて楽しもうという心構えだった。 なのに……。令和になってRPGのペーパーマリオがもう一度遊べる。全世界で絶賛された最高傑作と名高い『ペーパーマリオRPG』が帰ってきた。 長年ペーパーマリオを追い続けてきた筆者からすれば、奇跡のリメイクだ。RPGを離れて以降、こんなにも激的な変化を遂げてきたマリオシリーズは、ほかに見たことがないのだから。 『オリガミキング』のその先はまだ未知数だ。また新しいペーパーマリオが現れるかもしれないし、根強い人気があるRPGの路線に戻るかもしれない。もしかしたら今回のリメイクの人気を確認してから未来が決まるのかも。 我々はまだ何も知らないし、知らないからこそワクワクが止まらない。これまで何度も驚かされている『ペーパーマリオ』シリーズに関しては、特にそうだ。 まずはリメイク版『ペーパーマリオRPG』で、旧友であるクリスチーヌ達と久々の冒険を楽しむことにしよう。また彼女達に出会えることに感謝しながら、この記事の執筆を終えたい。最後にひと言だけ、 『ペーパーマリオ』シリーズはいいぞ! © 2001 Nintendo. 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