シンガポールの首相交代、社会保障重視への国の変化を反映か
(ブルームバーグ): アジアで最も富裕な国で、世界最高水準の教育制度を備えるシンガポールの次期首相に就任する人物は、驚くほど控えめに見える。
屋根材の営業幹部の家庭に生まれたローレンス・ウォン氏は2022年4月にシンガポールのいわゆる「第4世代」チームのリーダーに選ばれ、同年の内閣改造で副首相に就任した。政府奨学金で米国の公立大学に進学したウォン氏は、将来の指導者輩出で知られるエリートコースにすぐに乗れず、公務員として働いた後に受け入れられた。
数年後に教育相に就任したウォン氏は、ユーチューブに投稿された公式動画で、成績に取りつかれないよう学生に説いた。米ハーバード大学修士号も持つ同氏は、「当時も今も、成績は重要ではない」と語っていた。
与党・人民行動党(PAP)の一部幹部が数年前、ウォン氏に首相を目指すつもりはあるかと気軽に尋ねたところ、「ない」と答えた。PAPは当時、次期首相候補にヘン・スイキャット氏を選んだが、ウォン氏は権力に固執しない人物との印象を一部の指導者に与えた。事情に詳しい複数の関係者が私的な会話を理由に匿名で語った。
ヘン氏が首相後継レースを降りた後、ウォン氏は地道な手法と国内の新型コロナウイルス流行拡大への冷静な対応でPAP内に信頼を築き、同国の第4代首相に就任する方向となった。同氏の経歴や人柄は、厳格な規律主義者だったリー・クアンユー初代首相や、ケンブリッジ大学で学び軍の准将になった息子のリー・シェンロン首相と異なる。
多くの意味で、ウォン氏の台頭はシンガポールの変化を反映している。かつては規則などに束縛されず、リスクは高いが見返りも大きい資本主義を採用する国に見えた。だが今では労働者階級への社会保障提供にますます注力しており、比較的賃金の高い仕事で外国人への依存を減らしている。
政治アナリストでシンガポール経営大学(SMU)法学部教授のユージン・タン氏は「ウォン氏のスタイルはより協議重視になる必要がある。それこそシンガポール国民が望んでいることだからだ」と指摘。「恐らく彼は、感情を示し親しみ深い指導者との印象を与えるだろう」とし、「必要な状況ではタフになると期待できる」とも述べた。