kZm、円環を鳴らして“破壊の先”へ 三部作の終着点にしてシーン最前線を行く『DESTRUCTION』徹底考察
kZmの生活や人生を追体験できるリリック
kZmの生活や人生を追体験できるリリック&作詞スタイルの変化 kZmのここ最近における楽曲は、リリックがとても具体的で、彼の私生活に根づいている感触がある。もともとは東京の都会的な部分やクラブで過ごす夜の模様を蒸留し、かなり抽象化して描写していた気がするし、2021年4月発表の「Aquarius Heaven」や、2022年8月発表の「Jordan 11」は、そうしたスタイルの象徴のように感じられた。 一方、今作では、先行リリースの「U Are My Paradise」で過去の失恋を引きずっている(あるいは“いた”)ことを仄めかしながらも、「帰り道がない」でその前談となる物語、「Back & Forth 2」では新たな彼女持ちであると同時に、自身が3年間の〈Probation 持ち〉でもあるという“2大ホルダー”だとも初めて明かす(ここでの“Probation”の意味については詳細に言及されていないが)。さらに、『DESTRUCTION』リリース前のリスニングセッションでの発言も加味すると、自身の部屋が目黒通り沿いの5階建てにあり、その部屋に飛び込んでくる夕陽のオレンジ色のことや、『Pure 1000%』リリースツアーに伴い全国を巡った際には、自身の“やりたい方向性”を突き進んだ結果、キャリアの終わりと目が合ってしまった瞬間のことなども赤裸々に綴られていた。 こうしたリリックの傾向は、2022年1月発表のWILYWNKA「Coast 2 Coast (feat. kZm)」や、2023年4月のVaVa「REVENGERS! (feat. kZm)」あたりから特に顕著になったのだが、描写が具体的になった分、kZmのパーソナルな部分まで潜り込んで、彼の生活や人生を追体験するような感覚になれる(どちらの楽曲も、リリックのトピックにある“共通点”があるため、自身で見つけてもらいたい)。これもまた、今回の三部作を通して見せてくれた彼の大きな変化といえるだろう。 “歪ませて破壊する次元”の先にあるもの 最後の話題に入ろう。前述のリスニングセッションで「De-void*」の前フリをする際、kZmが自身の音楽活動におけるテーマ……それに限りなく近いヒントを与えてくれる瞬間があった。キーワードは、“円環”である。 この言葉が口にされたのは、彼が自身のコレクティブ・De-void*のロゴについて解説した場面。円状に描かれたデザインに切り込みを入れているのは、“人とは違う”と感じる仲間たちを、同じタイプが集まる輪の内側に迎え入れる入り口を意味するためだという。ここで、彼の音楽活動の全貌にも触れられたわけだが、思えば本作のタイトルである“DESTRUCTION(破壊)”には、“再生”がつきもの。さらに、冒頭に記した“動”と“静”、そこから最後に再び“動”へと立ち戻るアルバム全体の流れや、「DOSHABURI」「Forever Young」「U Are My Paradise」の3曲で描いた物語もそう。kZmの音楽は常に、円環の理念と共にあるものだ。 人生は繰り返すもの。それはたとえば「Intro – Destruction」でも語られているが、蒸発や凝縮を繰り返す、地球における水の廻りのようでもある。「STAR」の歌い出しで、『DIMENSION』『DISTORTION』含む三部作のタイトルをすべて引用したライン〈歪ませて破壊する次元〉があるのも、そういった循環や円環を示唆してのものだろう。であれば、この破壊を終えた先に、また新たな“次元”が生まれるのか。あるいは、再生されてしまうと言った方が適切か……。 ひとつあるとすれば、ラストを飾る「TRAUMA」の最後に、雨が降るような水音が一瞬だけ挿入されていた。そういえば、今作収録の「DOSHABURI」は、ralphを迎えたリミックスバージョンではなかったし、Lil Ash 懺悔とTohjiを迎えた、通称“腰パンswag”の新曲(後に「Sagging My Jeans」と判明)も“次の作品”に入ると本人がとあるライブの場で匂わせていたような。これから先、何が起きるのかはあくまで想像に過ぎないが、もし“デラックス”な未来が待っているとしたら? kZmが表現する“円環”の2周目が、そう遠くない将来、始まるのかもしれないーー。 ※1:発言は『DESTRUCTION』リリース前のリスニングセッションより ※2:https://fnmnl.tv/2023/02/27/150778 ※3:https://realsound.jp/2020/05/post-556485.html
whole lotta styles