撮影/横須賀功光

ファッションの街・パリでコレクション・モデルとしてデビューし、一シーズンに十数件のショーを掛け持ちするなど、文字通りのトップモデルとして活躍した山口小夜子。 【写真をもっと見る】「美しくない人なんていない」伝説のトップモデルが残した言葉 モデル・俳優の冨永愛は、もっとも尊敬する存在と公言する。マツコ・デラックスは美の化身と絶賛。 亡くなって15年以上が経つが、いまも多くの女性がそのファッションやメイクに憧れ、模倣する。東京都現代美術館の「山口小夜子 未来を着る人」展覧会(2015年)には5万6000人もの人が来場した。 山口小夜子は、印象的な言葉を数多く残した人でもあった。 生前に残した多くのインタビューを再編集した新刊『この三日月の夜に』から、圧倒的に美しい写真と「天につながる」言葉を抜粋して紹介する。 自分に似合うかどうか考えずに 服装をブランドで選ぶのは理解できない 私も昔はミハマの靴やフクゾーのブラウスやセーターに憧れたころがありますが、自分に本当に似合うかどうか考えないで、ただ靴はどこそこの何、スカートはこれでブラウスはあそこのあれ、という着方はどうも理解できません。 今は以前のように、丸顔の人はこんなスタイル、顔の細い人はこんなスタイル、背の高い人は、背の低い人は、云々といったルールや決めつけはなくなりました。誰でもしてみたいヘアスタイルに自由に挑戦してみていいと思いますが、あくまでも自分の個性を考えて、誰かがやっているのと同じスタイルという選び方をせずに、どこか自分なりのアレンジを考えたいと思います。そのためにも自分の髪の質や状態をよく知っていることが必要です。 アクセサリーを上手につける方法は、服の主張をまず聞いてみることではないでしょうか。何もつけないでこのまま着てほしいと言っているか、こんなアクセサリーでこんなイメージに着てほしいとか、服が教えてくれることってあると思います。アクセサリーの使い方の上手下手は、そんな、服が語っていることを感じ取れるかどうかにもよるのではないでしょうか。 私はいろいろなファッションデザイナーのアクセサリーの使い方を実際に見て、だんだんとアクセサリーの意味がわかってきました。それでも実際につけてみると頭の中でこうなるだろうと想像するイメージどおりにはいきませんから、全身が映る鏡の前でバランスをチェックすることは、外出前には欠かせない習慣です。 日本人は歩き方が下手だとよくいわれますが、正確には、洋服を着たときの歩き方が、というべきでしょう。それは、洋服と和服とでは歩き方が違うせいもあると思います。 ひとことでいえば、洋服では腰から歩く、着物では膝で歩くということでしょうか。今は誰でも生まれたときから洋服になっているのに、なぜだかやはり歩き方はまだまだのようです。 モデルにかぎらず、ヨーロッパやアメリカに行くと、街を歩いている人がみんなとても姿勢よく美しく歩いていることに気がつきます。脚をまっすぐ伸ばしたままスッスッと、颯爽として力強く、同時にとてもエレガントです。 それに比べると、日本人にはそんなふうに美しく歩ける人はまだまだ少ないように思います。特にハイヒールをはいたときなど、歩き方が慣れていないところが目立つようです。 歩き方は生き方にも 通じるところがある 欧米では足というと腰から下全体を意味するので、歩くときも腰から。足を運ぶのではなくて腰を運ぶという意識で歩くようです。ちょうどコンパスを広げるように、脚のつけ根で歩幅を決めるような気持ちでやってみると、膝も曲がることなく歩くことができます。そのとき気をつけることは、後ろに残るほうの足の膝も伸ばすようにすること。踏み出す足を気をつけてまっすぐ出しても、反対側の足がひょこっと曲がったりしてはだいなしです。膝を曲げないように歩けば、腰の位置が上下に揺れることがなくなります。そうすれば重心が安定しますから姿勢も崩れません。ハイヒールをはくとつい足もとのほうが気になりますが、意識を腰にもってくると自然に歩くことができます。 着物を着たときは、反対に、膝から歩くようにします。昔は膝を紐で結んでおいて歩く練習をしたそうですが、洋服のときのように歩くと裾がバサバサと乱れてきます。でも、着物を着ると自然に足の運び方も内股になるものです。 ただ、歩き方は、着ている服や状況によって変わります。 私は、大地に足をつけた歩き方をしていきたいと思っていますし、歩き方は生き方にも通じているところがあると思っています。背筋を伸ばして、洋服を着たときはそのように、着物のときは着物なりに、いつも美しく歩いていたいと思っています。 小夜子の魅力学　1983年3月13日 おすすめ記事<「美しくない人なんていない」心に響く、伝説のトップモデルが残した言葉​​​>