映画「本心」描く“故人を蘇らせるAI”は実現可能なのか。映画では母親が蘇り、知らなかった側面が明らかに
“自由死”を望んだ母の“本心”を知りたいと思った青年は、生前の母のパーソナルデータをAIに集約させ、仮想空間上に“人間”をつくる、VF(ヴァーチャル・フィギュア)という技術を使って、母を蘇らせることを決意する。完成した母との日々の暮らしで、彼はたわいもない日常を取り戻していくが、VFは徐々に“知らない母の一面”をさらけ出していく――。 【写真】池松壮亮主演の映画『本心』の場面カット 平野啓一郎の同名小説を、石井裕也監督、池松壮亮主演で映画化した「本心」(TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中)は、技術が発展し続けるデジタル化社会の功罪を鋭く描写するヒューマンミステリーだ。共演には、田中裕子、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡ら豪華キャストが勢ぞろいしている。
そこで今回は、本作のAI監修を務めた理化学研究所の清田純氏に、本作が描き出すAI技術のリアリティー、そしてその実現可能性などについて聞いた。 ■ChatGPTが誕生する前に予言していたこと ――この映画でAIの監修を務められたわけですが、主にどのようなところを監修されたのでしょうか? 本作に関しては、台本が出てきた時点で、専門家から何か言うことはほぼないくらいの完成度でした。まず、この原作が、ChatGPTが登場する前の2019年から2020年に書かれたというのがすごいこと。ほとんど当たっていますからね。
だから僕が実際関わった部分としては、例えば、VR、AR、MRの技術的な違いを整理してその違いを共通認識にするなど、技術的な情報の整理を行ったということです。 ――生前のパーソナルデータをAIに集約させて、仮想空間上に“人間”を作るVF(ヴァーチャル・フィギュア)という技術で、亡くなった母親をよみがえらせるというのが本作の物語の骨子となるわけですが、そもそもこの技術は実現可能なものなのでしょうか?
この原作が書かれた2019~2020年の時点ではSF的な要素もいくつかあったはずなのですが、この数年間で技術が急激に進化し、原作の世界に追い付いてきました。だから原作が登場した時点で感じるSFっぽい感覚と、2024年に映画で見たときにおけるリアルな感覚とでは、違いがあるのではないかと思います。 中国ですでに、生成AIにより亡くなった方を再現するサービスが提供されているように、実現に必要な要素技術は出揃っていると言えます。