松山城土砂崩れ「なぜ梅雨に工事を」救えなかった命…文化財は“足かせ”になったのか?
文化財が人の命を守ることも
なぜ、文化財を守る必要があるのでしょうか。 文化庁のHPによると文化財は「我が国の長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産」とされています。文化庁の担当者も、文化財は過去を生きた人々の営みや“生きた証”を今に伝える貴重な資料・史料であると話します。 時として文化財のような歴史は今を生きる人、これからの時代を生きる人の指針にもなります。 例えば、過去の災害の歴史を刻んだ石碑や書物などの資料。これを分析することは、これから起こりうる災害から現在・未来の人命を守るヒントや教訓にもつながります。 どの文化財も、“なぜ私たちが今を生きているのか”を解明するための手がかりとなるものなのです。 こうした考えなどから「文化財保護法」に基づいて、文化財の現状変更など手を加える時には一定の制限が課されています。 江戸時代から残る貴重な現存天守である松山城。天守などの建造物以外を工事する際も文化庁への届け出が必要となっています。
人命と文化財…優先されるべきは
繰り返しますが、現時点(7月17日時点)では工事と土砂崩れの因果関係は不明です。 いずれにせよ、松山市は庁内外で必要とされる手続きを適切に踏んでいった結果、7月という雨の時期が最短の着工時期となりました。 ただ、7月に始めた擁壁を撤去する応急処置よりも前から、道路に約10mの亀裂が複数確認されています。 もし、梅雨の時期を避けて着工スケジュールを遅らせたとしたとしても、断続的に降った大雨に“手つかず”の当該現場が持ち堪えることができたでしょうか。 それではもっと早く工事を開始することはできなかったのか。文化財保護が“足かせ”になったのか。
文化庁の担当者によると、災害復旧など人命にかかわるような緊急時には、ある程度の手続きを省略してすぐに工事に着手できる“特例的措置”があると言います。 「文化財保護法」の125条にも明記されています。 実は市はこの“特例的措置”を今年7月2日の擁壁を撤去する工事でのみ適用していました。ただ、復旧工事全体については「安全対策が行えていると判断」したため適用せず、通常の手続きで進めたということです。 もしこの“特例的措置”を復旧工事全体に適用していたなら、梅雨よりも前に工事を終わらせることができた可能性もあります。 しかし、発災前にどれだけの人が危険性を予測できたでしょうか。遡及して私たちが指摘することは結果論に過ぎないのかもしれません。 歴史的建造物などの文化財は、時間が経てば経つほど劣化も進みます。近年の豪雨を始めとする異常気象も追い打ちをかけます。 今月15日には鳥取城跡でも、のり面が崩落しているのが確認されています。松山城に限らず全国の文化財が“危ない”状態になってきているのではないでしょうか。 そもそも文化財保護と人命保護は対立関係ではありません。どうすれば共存できるのか。考えないといけない時代に入ってきています。 ※7月18日付けで松山市より日付修正のリリースがありましたので反映しました。