ザックジャパン、イラクでの収穫
電光石火のカウンターだった。 岡崎慎司が長い距離をドリブルで運んでいく。その左後方から全速力で駆け上がってきたのは、長谷部誠に代わってキャプテンマークを巻いた、チーム最年長の遠藤保仁だ。試合終了まであと3分という時間帯。一体どこにそんな体力が残っていたのか。「最後の最後だし、あそこで行かないと」という言葉には、ベテランゆえの嗅覚が感じられた。 だが、遠藤の真骨頂はここからだった。ペナルティエリア内でパスを受けた遠藤は、シュートモーションに入ったかに見えた。実際、本人も「トラップした瞬間は、自分で打とうと思っていた」と明かしたが、しかし、「確率の高い方を選んだ」と寸前で判断を変え、走り込んできた岡崎にパス。「ヤットさんから来ると信じていた」という岡崎がこれを右足で流し込んで、待望のゴールが生まれた。 その後、試合中に相手選手に頭部を蹴られた伊野波雅彦が体調不良を訴えるアクシデントに見舞われ、急きょ、高橋秀人をセンターバックに投入したが、1点を守り切ってワールドカップ予選の最終戦を白星で飾った。 それにしても、難しいゲームだった。もしかすると、今予選で最も苦戦した試合だったかもしれない。そこまで苦しんだ理由は一体、なんだったのか。 試合後、日本人記者向けの囲み取材に応じたザッケローニ監督は、安堵の表情を浮かべながら、試合を振り返った。「試合が難しくなったのは、この暑さと風の影響だ。それに加えてイラクはこの試合に絶対に勝たないといけないという気持ちで来ていたので、相手のほうに勢いがあった」 すでに予選突破を決めている日本に対し、イラクはグループ最下位。しかし、2位のオマーンとは勝点差4。残り2試合を残しているため、2位になる可能性が残っていた。加えて、開催地のドーハはキックオフ時間の17時30分になっても35度を上回るほどの暑さ。指揮官も指摘した強風が、さらに日本を苦しめた。この日、メインスタンドから見て左から右に砂混じりの強風が吹き荒れていた。それがどれだけ強かったかは、コーナーフラッグのポールが風に煽られ、傾いていたことからもよく分かる。 イラクはこの風を利用してロングボールを放り込み、日本のディフェンスラインを押し下げようとした。今野泰幸と伊野波のセンターバックが辛うじて跳ね返したが、前掛かりでプレッシャーを強めるイラクにセカンドボールを拾われ、二次攻撃、三次攻撃につなげられてしまう。ディフェンスラインはずるずると後退し、反撃の手立てはカウンターしかなかった。