映像業界で日本と世界をつなげる架け橋に――“クリエイトベース”の雨無麻友子Pが感じる構造的問題と期待
若手がオリジナル作品に挑戦する機会が削がれている
ここ長らくテレビドラマでは漫画原作の作品が多い。これについて、雨無Pはこう分析する。 「若手クリエイターが“監督”としての経験を積む場が、深夜ドラマに限られることが多いんです。深夜ドラマは低予算であるため、リスクを抑えるために漫画原作を選ぶ傾向が強い。これにより、オリジナル作品ではなく原作物の制作が主流となっています。オリジナル作品を作りたい若手クリエイターも、経済的な事情や仕事の継続性を確保するために、安定した収入が得られる漫画原作の深夜ドラマを選択せざるを得ない。“原作ありき”の制作環境に押し込められ、オリジナル作品に挑戦する機会が削がれているわけです」 いわば制作現場の構造的問題だ。その状況を「一概に悪いとは言えませんが…」と雨無Pは続ける。 「私がオリジナル作品が多いのは、どうしても漫画原作者さんとのコミュニケーションが難しいからです。やはり漫画は作品が練られており、その素晴らしい原案を頂いて一緒に作品創りをさせていただくというのは、急にオリジナル脚本を作るより、それだけ素晴らしい作品になる。ですが、一度漫画というプラットフォームで出されているものを実写に適正化するのは難しい。私自身、原作者の方とどうコミュニケーションしていったらいいのだろうかというのは今も探っている状況です」 実際、実写化に成功した作品も多い。だが、過去に向田邦子賞のオフィシャルライターをしていたことがあった筆者は、脚本家の人々が「オリジナルドラマが増えなければ若手が成長しづらい」という業界の悩みをつぶやいていたのを聞いたことがある。 雨無Pは「脚本家、監督でも巨匠の方々と違い、若手だと制作期間の短さがネックになり、長く練り込んで内容を作る時間にしっかり対価を払うには潤沢な資金が必要不可欠になります。そういったルートを私は作りたいですし、業界がこの状況を課題だと思うようになってもらいたい」と力を込める。 ■製作委員会方式でもクリエイターに権利を 制作現場の構造的問題の背景には、「製作委員会方式」の課題も浮かぶ。この方式では、資金を提供する企業(出資者)が権利を多く保有し、実際に作品を制作するクリエイターや制作チームに十分な権利が渡らないのだ。多くの企業が出資する製作委員会形式では、意見が多様すぎてクリエイティブな決定が妥協や平均化されやすい。その結果、ストーリーや演出が弱体化し、魅力的な作品が生まれにくい。 また、資金配分に関しても委員会は作品の制作資金を出資するが、その資金の大部分が制作費以外(プロモーション費用や管理費など)に割かれることが多い。制作現場には十分な資金が行き渡らない状況が続いている。 制作費がなければ、そもそも作品は作れない。この解決案として、「g」の重松氏は「例えば、権利の100%でなく、80%を委員会側に。残り20%の権利をクリエイターにという形にしていく」という案を出す。現状では出資者が権利を保持しているため、海外市場での展開や共同制作がスムーズに進まない。海外配給やプロモーションの戦略が不明瞭なまま進められ、チャンスを逃しているケースが多いのではないか、という考えからだ。