国立大学で若手研究者が減少、研究機関は「民間への就職の流れが必要」
博士課程を敬遠?
博士課程への進学者そのものも減っている。文部科学省の科学技術・学術政策局が2015年5月にまとめた調査「若手研究者をめぐる状況について」によると、2004年には修士課程の修了者69073人のうち、9708人が博士課程に進学していたが、2013年には修士課程の修了者が76511人に増えているにも関わらず、進学者は7274人と2000人以上減っている。
若手の比率が下がり60歳代以上の比率が増加
文部科学省の学校教員統計調査によると、1995年度と2013年度の国立大学の常勤教員(任期付き含む)の年齢構成を比較すると約20年の間に、25~29歳の比率は4.4%から1.4%に、30~34歳は14.6%から8.4%に減少している。一方で、60~64歳は7.7%から11.0%に増加している。国立大学教員の平均年齢も1995年には44.9歳だったが、2013年には47.4歳に上昇している。 年齢構成の偏り一因としてよく指摘されるのが、2004年頃から各大学で取り組んだ定年の延長だ。同年に高年齢者雇用安定法が改正され、定年の引き上げか、継続雇用制度の導入、定年の廃止のいずれかの措置を実施しなければならなくなった。文部科学省の人事課によると、大学教員は、給与の下がる再雇用制度ではなく、給与水準がおおむね維持される定年延長を採用していると推測されるという。 一方で、人件費などに当てられる国から交付される運営費交付金は2004年の国立大学法人化以降年々減額され、2004年度には1兆2415億円(全大学合計)だったが、今年度は1兆945億円で、2004年度から段階的に1470億円、11.8%減った。人件費に充てられる財源は減っているが、人件費のかかる高年齢の教員が増えているため、大学が常勤の若手教員の採用を躊躇する状況が生まれている可能性がある。
国立大学でだめなら「民間に」?
ただしこういったことばかりが理由ではないと指摘するのは「博士人材追跡調査」などを行っている小林淑恵・NISTEP上席研究官だ。「定年延長の影響の他に、研究が盛んな米国では外部から獲得してくる競争的資金が主流のため、日本でもこの流れが取り入れられている背景がある。大学や研究職に関わらず日本全体で非正規雇用の割合が増えていることなども影響していると考えられる。高年齢の教員が増えたことのみが若手教員の処遇を圧迫していると直接的に結びつけられるものではなく、今の状況は複合的な要因の結果だ」と説明する。 国立大学で人件費を大きく支える運営費交付金が減少する中、研究者を目指す若者はどうすればいいのか。小林上席研究官は「博士号取得者の数は、世界的に見て日本は少ない方だが、民間への就職希望者が少なく、また就職活動も、新卒一括採用の弊害でなかなかうまくいかない背景がある。一方で高度人材を民間でも活用したいという国の思いは強い。大学や公的研究機関の研究職だけではなく、民間への就職が円滑に叶うような流れを作る必要がある」と話す。 このような意見に対し、中部地方の国立大学で任期付きの教員職を得ている男性(30歳代前半)は次のように話す。「民間に就職するときに研究の過程で培った行動力や情報の入手、分析の仕方は役に立つだろうが、研究のテーマがそのまま仕事に結びつくことはなく、ゼロからのスタートになる。 また、民間への転職の際、年齢のタイムリミットに関する認識にギャップがある。研究の世界では30歳代はまだ若手で研鑽を積んでチャンスを待つ時期だが、一般の転職市場ではすでに若手としてはみなされない。 その年代の研究者は若手ながら狭い範囲の研究分野においては、日本や世界におけるリーダー的存在となっていることも珍しくない。研究の世界から身を引くことが分野の消滅につながることを考えると、新たな環境に目を向けることは容易ではない。早くても30代も半ばを過ぎなければ難しいのではないか。 異分野で成果を挙げた人物を年齢に関わらず評価する文化や活かす工夫が必要だ」 (取材・文/高山千香)